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Mishima 88 Quest ~見島88ヶ所巡礼~ 第一弾


10年以上前になるが、四国八十八ヶ所を自転車で区切り打ち(数回に分けて88ヶ所を巡礼すること)した。これ以降、山口県内にも萩、秋穂等にも八十八ヶ所があることを知り、全国には1,000を超える八十八ヶ所遍路と呼ばれるものが存在するということも知った。そして今回、山口県の最北端の離島、萩市見島にも八十八ヶ所があるという事を知り、チャレンジしてみることにした。メンバーは、現在、出雲國神仏霊場二十ヶ所を共に区切り打ちしているゴッツとイッコーさん、そして俺の三人だ。
四国八十八ヶ所では寺が八十八ヶ所あるが、見島八十八ヶ所の場合は、どうやら島内の八十八の『地蔵』を巡礼して回るようである。地蔵は、飛び番ではあるものの一か所に複数の地蔵が設置されている所もあり、多い所では17の地蔵が集約されている。見島は南北約4km、東西約3km程度の小さな島であることから、順番さえ気にしなければ、歩きで2日もあれば十分に八十八か所を全て巡礼できるのではなかろうか。
しかし、我々は敢えて順番を守って巡礼する。同じポイントに何度も足を運ぶこととなり、それなりに時間と労力を要するであろうと考えられるが、そうは言っても、見島は南北約4km、東西約3km程度の小さな島であり、順番通りに巡礼しても、歩きで3日もあれば八十八か所を全て踏破できるだろうと考え、2泊3日分の食料やテントなどを携え、見島に乗り込んだ。

一日目

見島の本村港から上陸すると、まず、萩市役所見島支所へ行き「見島八十八ヶ所ウォーキング」というマップを入手した。このマップに八十八ヶ所のおおよその位置が記されている。見島は南側が「本村」、北側が「宇津」と呼ばれる地区に分かれており、本村に77ヶ所、宇津に11ヶ所の巡礼箇所がある。そして、見島支所では、「八十八か所のうち数か所は存在しないかもしれない」という気になる情報も得た。
早速、1番の地蔵がある吉祥寺へ向かった。吉祥寺にはすぐに辿り着いたが、境内を探しても地蔵が見当たらない。5分ほど捜索したが見当たらないため、境内の外側を探すと、道沿いに幾つもの地蔵が並んでいる所を発見した。並んでいる地蔵の中には、八十八ヶ所と関係のない地蔵もあるが、八十八ヶ所の対象となる地蔵には、地蔵の土台部分に番号が彫ってある。その中から「壱番」と書かれた地蔵を見つける。
次に、2番の讃岐坊へ向かう。吉祥寺からは150m程度の近場である。讃岐坊に到着すると同様に境内を探し、すぐに地蔵が並ぶ場所を見つけることができた。
そして3番はまた吉祥寺、そして4番はまた讃岐坊と、吉祥寺と讃岐坊の間を往復する。4番まで巡礼を済ませ、この時点で、1番からの経過時間は約20分であり、1か所あたり平均5分、このペースであれば、88ヶ所全て巡礼するのに3日もかからない。
続いての5番は「おやま」と呼ばれる約1.5km離れた標高約130mの場所にある。重たいザックを抱え、炎天下のコンクリート舗装された坂道を約25分かけてゆっくりと登って行く。体力的には若干辛いが、空は蒼く澄み渡り、海が見える素朴な景色が離島に流れるゆっくりとした時間を感じさせ、心を和ませる。
その後、昼食を挟みながら、そして7番の発見に若干苦労しつつ、ある程度順調に10番まで進んだ。しかし、この時点で14時20分。11時前に巡礼を開始して約3時間30分。1か所あたり平均20分の時間を要している。このままでは、88ヶ所全て巡礼するためには、単純に30時間を必要とするため、3日間では難しくなってくる。ペースを上げなければいけない。
「見島八十八ヶ所ウォーキング」に示される11番のポイントへ向かった。このマップからは大雑把な位置しか把握できないため、おおよそ示される付近をあちこち歩き回り、11番の地蔵が設置される「毘沙門天」と呼ばれる場所を探す。
しかし、あらゆるルートを約1時間歩き回ったが、どんなに探してもそれらしい場所は発見できない。重たい荷物を担いだまま歩き回り、疲労も蓄積されてきたので、一旦腰を下ろし、休憩することにした。この時点で15時30分であるが、まだ10番までしか巡礼できていない。
今回だけで全てを巡礼することに対し暗雲が立ち込み始めたこの雰囲気は三人とも感じていた。「もしかすると、今回の3日間だけでは終わらないのではないか?」「今回は第一弾やな。」「第二弾以降が確定したな。」「見島を舐めとったな。」と、そんな会話がやり取りされた。
重い腰を上げ、捜索を再開した。だが、この近辺は全て探したつもりなので、“もしかすると、存在しないのでは?”という疑念も湧いてきた。見島支所でも「存在しない場所もある。」と言っていた。そう思いながら30分程度探してみたが、やはり見つからない。もうこれは、誰か村人に聞くしかない。存在しないならその確定情報を得なければ、次へは進めない。
ちょうどそこへ、散歩をしているおじさんが通りかかった。「すみません、この辺りに毘沙門天があると思いますが、ご存知ですか?」と尋ねると、「この辺りにあったと思うよ。」と我々を誘導してくれた。しかし、その先は既に我々が捜索済みのエリアである。おじさんも長らくその場所を訪れることは無かったようで、周囲をキョロキョロとしながら、「この辺りにあったと思うけどなぁ。」と。
“この辺りは、もう探したけど無いんよねぇ。”と思いながらも、他に情報のない我々は、この村人の証言を信じるしかない。イッコーさんもそう感じたのだろう、既に捜索済みであるはずのルートへ改めて入って行った。すると、すぐさま「ありましたよっ!」と声がした。“何っ!”とその声の方向へ駆け寄ってみると、道端の竹藪に僅かに見える細い獣道ほどの通路があり、そこを数メートル進んでいくと、鳥居があり、狭いながらも藪に囲まれたスペースが開け、小さな御堂があり、その脇に我々の探し求めていた11番の地蔵が鎮座していた。苦労して探し求めたものを発見した悦びは大きかったが、10番の参拝から既に2時間弱の時間を費やしてしまっていた。
発見した11番がある毘沙門天への入り口は、探したはずの場所である。地蔵は、道端など分かりやすい所に祀られているものと思い込んでいた。散々探したけれども見付けられなかったので、もう11番は存在しないものと思い込んでいた。疲れもあってか、既に我々からは“気力”が失われ、藪の中まで疑う行動を起こしていなかった。しかし、村人の話を聞くことで、その付近に存在することが確信でき、前進することが可能となった。
四国八十八ヶ所を結願したことによる慢心、傲り、そして、その知識に頼った油断であろう。今まで経験した遍路では、行けば目的物は探さずともそこにあった。見島八十八ヶ所は、目的物が寺等の目立つ大きな建築物ではなく、小さな地蔵だけである場合が多いため見付け難い。『探索』という行為が必要である。手元の資料から目的地を想定し、捜索し、行き詰まれば村人から情報を入手し、そしてまた捜索しなければいけない。見島八十八ヶ所を完全に舐めていた。見島八十八ヶ所は、ただ進めばよいという単純な遍路ではない。これはまさに『クエスト』である。
『クエスト』である以上、ここで皆のステータスを確認しておかなければいけない。
sue
   ゆうしゃ
  せいべつ:おとこ
   レベル:  3

   ちから: 50
 たいりょく: 50
  かしこさ:700
さいだいHP: 60
さいだいMP:  0
ごっつ
   どうぶつ
  せいべつ:おとこ
   レベル:  1

   ちから:100
 たいりょく: 70
  かしこさ:  1
さいだいHP:120
さいだいMP:  0
いっこー
   しゅふ
  せいべつ:ふめい
   レベル:  2

   ちから:  5
 たいりょく: 50
  かしこさ:  8
さいだいHP: 40
さいだいMP:  0
さて、引き続き12番へ向かった。目的地付近に到着すると、畑の中の道端に12番の小さな看板が立っていたが、地蔵は見当たらない。藪の中の11番で苦労した我々は、すぐにその看板付近の藪の中を探してみたが、どうも見当たらない。散々探した後に、ふと道沿いにあるコンクリート造りのきれいな建物に目をやった。その入口には『南無六地蔵尊神』と書かれており、引き戸を開くと、中には地蔵が並んでいた。11番の藪の中と比較すると、今度はあまりにも分かり易すぎて見つけられなかった。
sueたちは こていかんねんの のろいを かけられていた。
時刻は16時30分。やっと12番が終わったばかりであり、次は13番である。13番は、先ほど11番を探した時に散々歩き回ったエリアにあるはずなのだが、その際に地蔵など見かけることは無かった。13番は『正覚坊旧運動場入口』にあるらしいが、『正覚坊』も『旧運動場』も、そしてその『入口』も場所を特定する術は我々には無い。なお、『正覚坊』とは、おそらく昔そういう名前の寺があったであろう場所を地元ではそう呼んでいるだけであり、現在では、何もない場所の地名でしかない。
先ほど探し回ったエリアの付近で、探していなかった道を発見したので、そこへ入って行く。しかし、そこは個人宅の敷地のようであり、地蔵がある雰囲気ではない。行き詰まった。そして、疲れてしまった。一応、ステータスを確認しておこう。
sue
   ゆうしゃ
  せいべつ:おとこ
   レベル:  3
    HP: 20
    MP:  0
ごっつ
   どうぶつ
  せいべつ:おとこ
   レベル:  1
    HP: 30
    MP:  0
いっこー
   しゅふ
  せいべつ:ふめい
   レベル:  2
    HP: 23
    MP:  0
やはり、HPも低下している。呪文はまだ使えないし、薬草も持っていないが、休憩を兼ね、座り込んで改めて手元の資料でどこを探索すべきかを再考することにした。
すると、ちょうどそこへ、その個人宅のおじさんが軽トラで帰宅してきた。村人からの情報は貴重である。早速聞いてみた。
sue「しょうがくぼうきゅううんどうじょういりぐちっていうところをさがしてます。 しっていますか?」
おじさん「しょうがくぼうね。 このうえに みちがあるから そこにいけばある。」
と教えてくれた。
しかし、『この上の道』とは、11番捜索時に、散々探し回った道の事であり、地蔵など見かけなかった。“やっぱりあそこかぁ。”という絶望感が漂ってくるが、その反面、エリアは絞れたことになる。そのおじさんは、「こっちから行けば近いよ。」と親切に敷地内を通してくれ、『この上の道』へと誘導してくれた。敷地の裏の門でおじさんにお礼を言い、13番の捜索を再開した。
『この上の道』は、小高い山の中を走るコンクリート舗装された幅2m程度の細い農道で、道沿いには竹が生い茂る藪しかない。所々に畑へ入る道があるが、一か所だけ、入り口から広々とした畑を見渡せる場所がある。畑は段々畑であるものの、その広さは『旧運動場』であったと考えることも出来そうな場所であり、そうであれば、その入口がここである。ここが『正覚坊旧運動場入口』である確証はないが、ここ以外思い当たる場所は無い。
入り口付近、そしてその奥へと徐々にエリアを広げながら捜索していくが、見付けられない。しかし、もうHPがやばい。
sue
   ゆうしゃ
  せいべつ:おとこ
   レベル:  3
    HP:  5
    MP:  0
ごっつ
   どうぶつ
  せいべつ:おとこ
   レベル:  1
    HP: 12
    MP:  0
いっこー
   しゅふ
  せいべつ:ふめい
   レベル:  2
    HP:  8
    MP:  0
これだけ探しても見つからないのであれば、13番こそもう存在していないのかもしれない。30分程度捜索するものの完全に気持ちは折れてしまった。
みんな「あしたのあさ みしまししょで そんざいしない じぞうのばしょの じょうほうを かくにんすることにして きょうは もう おわろう。」
と、この日の巡礼を終えることにし、野営地として予定していた見島ダムへ向かった。
見島ダムへ着くと、早々に水道で体を洗い、テントを張り、米を炊いてレトルトのカレーを喰い、星を見ながら酒を飲んだ。3日間で見島八十八ヶ所を踏破しようとしたことを深く反省しながら、深い眠りへと落ちた。

二日目

明るくなり、目が覚めた。この日も良い天気だ。熟睡できたおかげで、HPも完全回復した。
sue
   ゆうしゃ
  せいべつ:おとこ
   レベル:  3
    HP: 60
    MP:  0
ごっつ
   どうぶつ
  せいべつ:おとこ
   レベル:  1
    HP:120
    MP:  0
いっこー
   しゅふ
  せいべつ:ふめい
   レベル:  2
    HP: 40
    MP:  0
出発の支度を整えていると、仕事で見島ダムへ来た村人と話をすることができたので、13番について聞いてみた。すると『正覚坊旧運動場入口』は、どうやら我々の思っている場所が正解であり、その入口の右側の角に13番の地蔵は在るという。しかし、藪の中に埋もれて見えにくい状態になっているのではないかと。
なるほど、そういう事だったのかと未だ見ぬ13番を既に見付けた気になり、「それなら、鉈(なた)が要るな。」と話していると、その村人はこう続けた。
むらびと「そのあたりは そのむかし ぼちだった。やぶを きりひらくと たたりがおきる という いいつたえがある。
じっさいに そこを きりひらいて しんだひとも いる。」
色々な意味で貴重な情報を得た我々は、準備を整え、再び『正覚坊旧運動場入口』へ向かった。そして村人から聞いた場所の藪の中を覗き込むと、いとも簡単に13番の地蔵を見つけることができた。昨日、あれだけ探したのに何とあっけない事だろうか。
その後、14番は昨日行った讃岐坊、15番は分かりにくい所であるが、昨日13番捜索時にたまたま発見した藪の中、16番も昨日訪れた所、17番も難なく見つけることができた。
その流れで、マップ上では海岸沿いの道の端に在るように記される18番へ向かった。きっと藪に入る必要もないだろうし、さほど困難は予想されないため、気は楽だ。おそらく人の手で積み上げただろう墓地を囲む石の壁に離島情緒を感じながら、そして、蒼い空に気持ちよさそうに浮かぶミサゴを見上げながら、のんびりと海沿いの道を歩いていく。
目的地付近に到着した。昨日の経験を礎に、藪の中も含めあらゆる所を探すが、見つからない。改めて手元の資料をよくよく調べてみると『高見山の頂上』に在ると書いてある。
sueたちは こていかんねんの のろいを かけられていた。
高見山とは、この時、我々の目の前にあった山である。標高は27mと低い山なので、登山道さえ分かれば何の問題もない。登山道を求めて山の麓を捜索し、それらしい所を見付けては登山を試みる。しかし、どのルートも少し進めば藪に阻まれ進むことができなくなる。山の麓の道路上で、村人二人に聞いてみたが、登山道など知らないと言う。またしても行き詰まってしまった。
しかし、この高見山に登らなければ、先に進むことは出来ない。山に登るためには、藪があまりにも繁茂しているため、鉈(なた)か何かの“武器”が必要である。見島支所まで戻り相談してみると、目的の武器を借りることができたので、早速装備する。
sue
E ぬののはんそで
E ぬののはんズボン
E ぬののぼうし
E のこぎり
ごっつ
E ぬののはんそで
E ぬののながズボン
E タオル
E なた
いっこー
E ぬののながそで
E ぬののながズボン
E ぬののぼうし
E のこぎり
これで山頂を目指せるが、“あの藪を伐開しながら山頂を目指す労力は並大抵ではないぞ。”とそんな事を考えていた時、突然、見島支所に一人のおばちゃんが訪れてきた。何の用件で訪れたのかは分からないが、見島支所の方がそのおばちゃんを紹介してくれた。
みしまししょちょう「このひとに きけば くわしいよ。」
見島では、年に二回、本村と宇津でそれぞれ村人が見島八十八ヶ所を巡礼する文化があったが、本村では高齢化により、もう2年以上その巡礼は行われていないと言う。このおばちゃん夫婦は、本村でその巡礼の中心人物であったようだ。
何という偶然だろうか。たまたま訪れて来た人物は、この瞬間、我々にとって最も必要とする人物であった。この人であれば我々の知りたい情報を全て持っているかもしれない。その上、話をしていると、そのおばちゃんが同級生の母親であることが判明し、二重の驚きを感じたのだった。
おばちゃんは、旦那さんを紹介してくれると言い、自宅へ案内してくれた。自宅へ到着すると、玄関先に旦那さんが出てきて、登山口の情報を教えてくれた。我々は、山の麓をあちこち捜索して回り熟知していたので、話を聞くだけで場所は特定できた。
ちょうど昼時を迎えていたので、この夫婦に、昼食を食べるために軒先だけ貸してくれとお願いし、昼食を食べた。“武器”も手に入れ、登山口も特定でき、腹も満たした。後は行動のみである。
昼食を食べ終わり、片付けをしていると、旦那さんが「食べ終わったかね?」と語りかけてきた。見ると作業着に着替え鉈鎌を手にしている。そのすぐ後に家から出てきたおばちゃんまで着替えている。「まさか、一緒に行って頂けるのですか?」と聞くと、「もう藪になって分かりにくいじゃろうからね。」と。
我々が現れた瞬間から、当然のように、何の躊躇いもなく同行してくれることを決めていたのだろう。望む以上の施しを与えてくれようとしている。もう着替えてしまっているこの見島八十八ヶ所マスター夫妻の意向を断る訳にもいかず、その有難い申し出に素直に甘えることとした。
クエストに やくだつ ふうふが なかまになった。
早速、高見山へ向かい、登山口から山頂を目指す。夫妻は先頭に立ち、そこに道が有るのか無いのか分からないような藪の中を、時に伐採しながらスルスルと進み、我々を誘導してくれる。相当な困難を予想していたが、その予想に反して、驚くほどあっという間に山頂に到着し18番の地蔵と対面出来た。そして18番から僅か5mほど離れた場所に19番の地蔵も在った。昼食を挟みはしたが、捜索から約2時間30分、長い時間を要した。
山を下り、夫妻に礼を言い、我々だけで20番の捜索に向かった。夫妻との別れ際に、見島支所で耳にした“存在しないかもしれない”地蔵について尋ねてみると、夫妻は「八十八ヶ所全て在る。」と断言した。この見島八十八ヶ所マスター夫妻が言うのであれば間違いないだろう。しかし、この情報は、当然ながら残りの69ヶ所が必ず存在することを意味すると同時に、見付からない場合の“もしかして、無いんじゃないの?”という心理的な逃げ道も閉ざされてしまった。 次の20番をマップ上で確認すると、探すのに苦労した11番の『毘沙門天』と13番の『正覚坊旧運動場入口』との中間点に位置するよう記されている。11番も13番も捜索する時には周囲を散々歩き回っているが、20番の地蔵など全く見かけることはなかった。つまり、我々にとっては「本当にこんな所に在るのか?」という思いしかない。ただ、唯一の救いは、この日の朝、出発前に出会った人から、20番へ行くための藪の入り口を聞いていることだ。
14時頃、その藪の入り口に到着し、藪の中の捜索を開始した。藪の中とは言え、きっとここが道だったのだろうというルートが辛うじて分かる。そのルートに沿って、鉈鎌を振るいながら突き進んでいく。しかし、途中からは、もうどこが道かも分からない藪になった。その藪の中をGPSで確認しながら、ひたすらマップ上に記されている20番の方向を目指す。
ゴッツもイッコーさんも長ズボンを装備していたが、見島八十八ヶ所を完全に舐めていた俺は、半そで半パンで藪を彷徨い続ける。肌の出ている所は枝に引っかかれたり、枝が刺さったりで傷だらけになり、流血もしている。蚊に刺されるし、毛虫にやられて肌がモコモコになっている。極まりなく不快である。唯一の救いは、出発前にイッコーさんが新調したトレッキングシューズを見せてくれたおかげで、サンダルで行こうとしていた俺も何となく気が変わり、トレッキングシューズを装備して来ていた事くらいだ。
しばらく進むと、藪を抜け、見覚えのある場所に出た。ここは、『正覚坊旧運動場入口』付近である。しかし、不可解な点がある。教えられた入り口から入り彷徨った藪のエリアは、マップ上で示される20番の位置より随分西側になる。教えてもらった情報とマップ上の位置が一致していないのだ。1番から19番までの位置は、マップ上の位置と大まかに一致していたという既成事実がある。なので、今一度、マップ上に示されている位置の周囲を捜索することにしたが、それでも見つけられない。
考え得る場所は捜索したが、それでも見つけられないので、もう一度振り出しに戻る。今朝聞いた藪への入り口を我々が間違えている可能性もあるため、それを改めて探してみたが、それらしい場所も見つからない。もう20番の捜索を始めて2時間が経過し、夕方も近くなっていた。このままでは明日の最終日まで探し続けても見つからないまま終わってしまうかもしれない。
こうなったら、見島八十八ヶ所マスター夫妻の力を借りるしかない。2時間ほど前に別れたばかりなのに、しかも、18番、19番を見付ける手助けをしてもらったばかりなのに、その次の20番の探索の援助をお願いするため夫妻の家に向かった。自分たちの無力さに、情けなさを感じる。
夫妻の家に到着し呼び鈴を押すと、旦那さんが出てきた。旦那さんに20番を発見できない事を説明すると、旦那さんはすぐに鉈鎌を手に、我々に同行してくれた。申し訳なさも、有難さも感じるが、我々だけでは見つけられないのでやむを得ない。
現地に着くと、早速、藪へ入って行く。入口は、先に我々だけで捜索した時に入った場所と同じだ。そして、同様に我々が進んでいったルートを進む。それから、我々が彷徨った藪の中を再び彷徨う。見島八十八ヶ所マスターの旦那さんは「あれ?こんな所、見覚えはないな。」と、藪の中を右往左往する。その後を付いて行きながら、“ん?もしかして分からないのか?”とも思ったが、さすがにそれを口にすることは出来ない。「どこにあるんですかねぇ。」とか言いながら、ひたすら旦那さんの後に付いて、藪の中を右往左往する。旦那さんと捜索を始めて、もうすで1時間弱が経過している。
だんなさんは もりのなかで まよっている。
本人も何とかしなければと思ったのだろう、「ちょっと、ここで待っとって。」と言い残し、その場を離れた。そして間もなく、奥さんを連れて現れた。
今度は、奥さんが先導して藪に入って行く。藪への入り口は同じ所だったが、藪に入ってすぐ、我々が進み入ったルートとは違う方向へ進んで行った。何とその方向は、マップに示されている位置とは真逆の方向であったため、“まさか奥さんまで分かっていないのか?”とも思ったが、奥さんは何の迷いもなく、道なき道をスイスイと進んでいく。すると間もなく、いとも簡単に20番の地蔵が目の前に現れた。
3時間以上、藪の中を彷徨い続け、やっと辿り着いたのだ。嬉しくないはずはないのだが、湧き上がる感情は単純な喜びではなく、安堵も混ざっていた。いや、混ざっていたと言うより、安堵の感情が主だったかもしれない。おそらく、藪の中を彷徨い、目的の地蔵が見つからない、出口の見えない長い時間の中で、それなりのストレスを感じていたのだろう。そこからの解放に対する安堵だ。
いずれにしても、またもや見島八十八ヶ所マスター夫妻(特に奥さん)のおかげで、20番に辿り着けた。このクエストは、必要な武器を調達し、必要な防具を装備し、村人の情報を得て、仲間を得て、そして数々の難題を解決しなければクリアすることは出来ない。
時刻は17時を過ぎた。一日中動き回り、疲れ果て、HPも危うくなってきた。もう、見島ダムへ行き、ゆっくりと体を休めたい。このまま歩き続けると、HPが無くなって死んでしまいかねない。そうなると、王様にも怒られてしまうし、所持金まで半減してしまう。
sue
   ゆうしゃ
  せいべつ:おとこ
   レベル:  3
    HP:  3
    MP:  0
ごっつ
   どうぶつ
  せいべつ:おとこ
   レベル:  1
    HP:  6
    MP:  0
いっこー
   しゅふ
  せいべつ:ふめい
   レベル:  2
    HP:  4
    MP:  0
しかし、マスター夫妻は、この近くにある79番はとても分かりにくいので、ついでに教えてくれると言う。「いや、79番はまだまだ先だし、今日は疲れているので、もう結構ですよ。」と言いたいところだったが、こんなに世話になり、その上、善意で教えてくれようとしている夫妻にそんな事は口が裂けても言えない。
そのまま農道を少し歩いて登ると、夫妻は突然左の藪に入り始めた。そこはただの藪であり、普通、ここが入り口であるなんて到底思わないであろう場所だ。ひたすら夫妻の後に続き藪を歩いていると、79番の地蔵があった。これは、絶対に自分たちだけでは発見できない。本当にただの藪で、そこに人が歩いたような跡は全く見受けられなかった。そんな藪を真っ直ぐ地蔵に向かって歩く夫妻に改めて驚きを感じた。
夫妻と別れ、野営地の見島ダムへ向かう前に、見島支所へ借りていた“武器”を返しに行った。ゴッツが見島支所長と知り合いである関係上、見島支所長が我々に“差し入れ”と言って袋を差し出し、ゴッツが受け取った。見島ダムへ向かう道すがら、ゴッツに「その中、何が入っとるん?」と確認させると、ビール、焼酎、そしてつまみまで入っていた。その上、氷まで入っており、ビールはよく冷えている。素晴らしい気使いだ!
快晴に恵まれ、一日中動き回り、汗をかき、疲れ切った我々にとって、冷たいビールは最高のプレゼントであった。目の前に冷たいビールが在ることを知ってしまった以上、もう我慢など出来ない。酒を飲まないゴッツに「今飲むからよこせ!」と言い、イッコーさんと二人で、渇いた喉に冷えたビールを流し込んだ。あぁ、こんなに美味いビールを飲んだのは、いつ以来だったろうか。我々はまだ呪文を覚えてないが、このビールでベホイミ並みに一気にHPが回復した。
sue
   ゆうしゃ
  せいべつ:おとこ
   レベル:  3
    HP: 60
    MP:  0
ごっつ
   どうぶつ
  せいべつ:おとこ
   レベル:  1
    HP: 12
    MP:  0
いっこー
   しゅふ
  せいべつ:ふめい
   レベル:  2
    HP: 40
    MP:  0
見島ダムへ着くと、早速、水道で体を洗い、飯を喰い、前日同様、星を見ながら酒を飲み、また深い眠りへ落ちて行った。

三日目

この日が最終日である。三日間で88ヶ所全てを巡礼しようとしていた目論見は見事に外れ、昨日までで20ヶ所しか巡礼できていない。もう、どんなにあがいても今回で88ヶ所を巡礼することは不可能である。そんなことは一日目に気付いており、気持ちとしてはすっかり諦めがついている。
故に、朝起きて、誰も急いで出発しようとはしない。見島から帰路に着く船便は、午前と午後にそれぞれ一便あるが、午前の便で帰ることは暗黙の了解となっていた。
もう みんな やるきが なくなった。
出発の準備を整え、港周辺の21番と22番だけを巡礼し、港へ向かいアイスクリームを食べながら、船の到着を待った。
23番は、村人等の情報とマップの位置が異なっている。その異なり様は尋常ではないほどだ。次回は、この難しそうな23番からの開始となる。次にこの島に足を踏み入れるのはいつになるかは分からないが、必ず結願することだけは、既に決定事項である。
次回、この楽しいクエストを続けるために、ここに冒険の書を記した。
ぼうけんのしょを きろくしました。

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