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大山バックカントリー


先週、鳥取県では32年ぶりに90cmを超える積雪が記録された。すると、自ずと大山のバックカントリーが頭に浮かんでくる。ちょうど山田さんからお誘いを受けていたところであり、マニアB師匠も誘い、3人で向かうことにした。
当日は、3時30分に山口市から出発。鳥取の豪雪は約一週間前で、それ以降、気温は上がり昨日は大山にも雨が降っていて、今日も雨の予報だ。滑走に対する雪の状態や雪崩の危険性なども気になる。交通量の少ない真っ暗な中国縦貫道を走っていると、時折激しく雨が降り、霧が立ち込めて全く見通しの効かない状況である。この状況から、我々は、冷たい雨に打たれながら登山し、登っても景色は全く見えず、滑走も雨で少し溶けた重たい雪で滑りにくいのだろうという、全く楽しくないバックカントリーを脳裏に浮かべていた。
それに加え、マニアB師匠は、もう一つ大きな不安を抱えていた。それは、日頃からあまり運動もしておらず、バックカントリーの経験も浅く、いつもバックカントリーへ行くと登山で足の筋疲労を起こしてしまい、滑走がとても辛いものになっている。なのに大山でのバックカントリーは荷が重いのではないかと。
皆んなのテンションは低いままに、大山の駐車場に到着した。駐車料を支払うと、係の現地人は方言で何か言っているがまるで理解出来ない。後にどうやら駐車位置を指示していたのだと理解し車を移動させた。その後も入場して来る運転手はやはりその指示を理解出来ず、指示された位置とは違う方向へ向かい、大声で呼び止められていた。この様子は車が入って来る度に例外なく繰り返され、それを見ながら我々は「あのおじさん、標準語を覚えようとは思わんのかね?」と楽しんでいた。
駐車場のおじさんのおかげで、緩みきってきっていたテンションは幾分解消されたものの、駐車場から見えるはずの大山はガスに覆われその姿は確認出来ず、雨も降り続いている。天気予報から考えても、この状況が改善することは期待出来ないので、雨対策も考慮しながら準備を進めた。
ザックに必要な物を詰め込むのに夢中になっていると、急に山田さんが「晴れて来た!」と言った。見ると、さっきまで全く見えていなかった大山の全容が、薄いガスの向こうに見えており、その背後には青空すら見えるではないか!その上、大山を覆う薄いガスはみるみる内にスッキリと無くなり、その美しい全貌を堂々と晒した。奇跡的な出来事である。この奇跡のお陰で、単純な我々は一気にやる気に満ちたのだった。
駐車場の標高は約740mで、目的地点の6合目は標高約1,350m、標高差は約600mの登山だ。マニアB師匠がバックカントリーで経験している登山は、約標高差350m。今回はそれの倍に近く、マニアB師匠の不安要因のひとつである。だがこれは、俺にとっても人ごとではない。やはり日頃から運動不足で体力には全く自信はない。一方、山田さんはと言うと、日頃から走り込んでいて、登山経験も豊富で、県内外のマラソンやトレイルランの大会にも頻繁にエントリーしていて、その体力は我々と雲泥の差がある。
そんな3人のパーティで、8時30分に登山口を出発し、ブナの林を尾根沿いに登っていく。山田さんは、時々「休憩する?」と気遣いながら、我々のペースにあわせてゆっくりと先導してくれる。しかし、我々はその気遣いを受け止める余裕などなく、ただただうつむき、息をきらせ、歩みを進めては止まり、そしてまた歩みを進めるのみ。
体を動かすと暑くなるので薄着で登っていくが、ブナ林に冷たい風が吹き始めると同時に霧も立ち込めてきた。体が冷える前に服を羽織る。元々天気が良い日ではない。「天候が荒れる前に登ろう。」と山田さんは言うが、そんなスピードコントロールは我々には無理である。
5合目を過ぎると、やがて森林限界を超える。天気さえ良ければ、視界が開け、米子から弓ヶ浜半島の全貌が望め“大山に来て良かった。”と思える醍醐味の始まりだが、雪面と霧のただの真っ白な世界である。
そんな疲れを癒す絶景も望めず、ひたすら頑張って歩み続け、もう足腰も限界に近付いたマニアB師匠が、この辺りから駄々をこね出した。「もう、6合目過ぎたんじゃないん?6合目より上に行こうとしてない?」と、子供のように尋ねてくる。さっき5合目を過ぎたばかりなので「まだっすよ。もう少しで6合目ですよ。」となだめる。
そして間も無く6合目に到着した。6合目の避難小屋へ向かい少し下るところで、マニアB師匠が左足のスノーシューのヒールリフターを下げようとした時「あいたたたたた!攣った。」と言う。左肩が攣ったらしい。山田さんと痛がるマニアB師匠のザックから腕を抜き、攣った筋肉の部位を確認して伸ばした。山田さんがマニアB師匠のザックを避難小屋まで運んでくれたが、子供のように座り込んでそれを見送るマニアB師匠の背中から、既に悲壮感が漂い始めていた。
山田さんは、8合目まで登り、そこから6合目の避難小屋まで滑り降りてくると言うので、その間、我々は熱いコーヒーを飲みながら、滑走に向け体を休める事にした。休憩しながら、滑走する方向を見下ろしてみるが、霧で見えない。しばらくすると、山田さんが合流して来た。いよいよ我々も滑走開始だ。
しかし、雪面は、週末の小春日和で溶け、昨日は雨を受け、そして昨夜から気温が下がり、滑走のためには最悪の状態だった。雪面はボコボコでスカスカの状態で、ターンをしようとエッジを切ろうとするとボードが雪に埋まり、ぶっ飛んでしまう。かと思えば、場所によってはアイスバーンになっている。もう、コケまくりで何も楽しくない。

問題は、マニアB師匠だ。もう足がパンパンの状態で滑走を開始しているので、コケると、立ち上がるだけで辛い。これを繰り返さなければいけないので、すこぶる辛い。マニアB師匠は、コケるとうずくまり、中々立ち上がろうとしない。立ち上がられないのだ。相当辛いのだろう。うずくまり、しばらく動かないマニアB師匠を見ていると、“もしかして、辛過ぎて、子供のように泣いているのか?”と思わせる雰囲気を漂わせている。
その後もコケては立ち上がりを繰り返し、少しだけの登り返しをマニアB師匠と歩いていた時、マニアB師匠は「俺はバックカントリーなんかしちゃぁいけんのよ。こんなとこ、来ちゃいけんのよ。子供とゲレンデに行くくらいがちょうどええんよ。」と、力なく言った。完全にスネている。子供のように。俺もマニアB師匠とそんなに状況は変わらないので「せっかく道具揃えたんすから、一緒にゲレンデからやり直しましょうよ!」となだめる。
そして、何とか大山神社までたどり着いた。ブーツの紐を緩め、地獄からの解放感に浸る。だが、それもつかの間、雪深い滑りそうな下りを駐車場まで歩いて行かないとならない。マニアB師匠も、もう少しなので頑張って歩き始めた。が、しばらく行くと「もう少しって言ったけど、もう随分歩いてない?」と子供のような駄々をこねた。「駐車場までもどったら、暖かい温泉に入りましょうね。」となだめ、何とか進んでもらう。
いよいよ、駐車場も近くなった。流石にマニアB師匠も安心したのだろう。急にじょう舌に喋り出した。まさに子供のようだ。機嫌も直り、冗談まで口にする程であるが、その冗談は「俺、性欲は衰えんから、性欲で山のぼれんかねぇ?」と、とても子供とは思えない内容だった。


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