朝はゆっくり出発し、11時頃、登り慣れた深入山への登山を開始した。雲のない蒼く澄み渡った空のもとに広がる一面の銀世界は、いつ見ても爽快である。その中に身を置いているだけでも気持ち良い。しかし、いくら登り慣れている山とは言え、身体は年を重ねるにつれ順調に退化を遂げており、爽快さとは裏腹に、息を切らせ汗だくになりながら頂上を目指す。体力を温存しながら、ゆっくりと、ゆっくりと登って行った。
この時期の深入山は、バックカントリーをスキーやスノーボードで楽しむ人、スノーシューでの登山を楽しむ人等様々であるが、多くの人は朝早い時間から登り始め、昼頃には下山する。なので、今回のように昼前に登り始めると、下って来る多くの人達と挨拶をしたり「雪の状態はどうでしたか?」等会話をしたりしながら登ることとなる。そんな中、半分以上登ったあたりで、下って来る陽気なおじさんが「あと100mじゃから、頑張って。」と優しく話しかけてきた。俺は息を切らせながら、その100mが当然標高の事と理解していながら「距離ですか?標高ですか?」と軽くボケを入れようと顔を上げ、その人を見た。
すると、そのおじさんの顔にとてつもない懐かしさを感じた。だが、サングラスで肝心の“目”が隠れていたため瞬間的に人物の特定には至らない。もう、ボケを入れることも忘れ、その人の顔を凝視した。それは相手のおじさんも同じで、語りかけてくると同時にサングラスをかけている俺の顔を凝視した。両者は、ほぼ同時に疑念を含みながらもお互いを認識し、同時にお互い徐々に笑顔になり、そのお互いの笑顔でお互いの疑念は確信に変わり、そして、同時にお互いの名前を呼びあった。その間、2~3秒だっただろうか?おそらくお互いの思考と挙動の段階は見事にシンクロしていた。そして、約15年前に山口県柳井市で同じ職場で働いていた二人が、今、岩国市と萩市に住んでおり、この瞬間、冬の広島の標高約1,000mの山腹で出会ったのだ。全く想定外の出来事であり、しかもその2~3秒の間のお互いの反応も楽しく、何とも表現しがたい最高に刺激的な一瞬だった。もうこうなると、自然な流れで記念撮影をしたくなってしまう。
おじさんと別れ、間もなく、山頂に到着した。リュックから椅子を出し、ストックとスノーボードで即席テーブルを作り、全方向に広がるパノラマを我がものとしながら、熱々のカップラーメンを食べて、コーヒーを飲んだ。
杉は、基本的に登山すらしないが、そのマメな性格からコーヒードリッパーやランチョンマットまで持ってきていて、山頂の楽しみ方を既に理解している。そもそも、バックカントリー主体なので、俺は椅子を持って上がることすら考えていなかったが、今回は登山初心者の杉が「椅子を持って上がろう。」と提案してきていたのだった。おかげで、この時期には稀な快晴、無風の山頂で、西は萩の見島から東は鳥取の大山まで見渡せる絶景を優雅に楽しむことができた。
ひとしきり山頂を楽しんで、いよいよスノーボードで滑走しながらの下山だ。時刻は16時が近づき、日も傾きかけ、気温も下がり始めている。既に深入山には我々以外の人影は見えなくなっていた。
杉はゲレンデに通い詰めているが、雪山の滑走はゲレンデの滑走の様にはいかない。ゲレンデほどきれいに整地はされておらず凹凸があり、雪質も斜面によって異なる。それらの状況に順応し、対応しながら滑らなければいけない。杉は今日、それに初チャレンジするのだ。俺にしても、二年ぶりの滑走であり、そもそもここ10年、一年平均で2本も滑ればよいくらいで、技術も体力も低下の一途を辿っている。
それ故に、気持ちよくシュプールを描いて滑るイメージとはまるで異なり、二人とも少し滑ってはコケる、そしてまた滑ってはコケるを繰り返しながら、登山口まで何とか滑り降りた。だが、これでも楽しくない訳ではない。雪山で雪と戯れているだけでも幸せなのだ。
おじさんです
返信削除最後のハプニングの出会いで最高の冬の深入山になりました
今年度の最高トレッキングは、バーナルフォールからネバダフォールへの断崖絶壁ハイキングとジョンミュアトレイルに触れ、ジョンミュア本人の横に座って、記念写真を撮った3日間だと確信していました
それが、すぐそこの1000メートルの雪の深入山が、一番のハッピーになりました
(ジョンミュアは等身大の銅像)
キン肉マンと痩せっぽちのツーショットは、笑えるね
また、どこかで会えるようトレーニングジムとサックスレッスンは、毎日欠かさず続けていきます
コメント、ありがとうございます。
削除JMTって、初めて知りました。天国みたいなグレートなトレイルですね。そんな所に行ったなんて、羨ましい!俺もいつかは踏破してみたい欲求に駆られちゃいました。
またどこかの野山で会いましょう!