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Back Country Paradise 大山 三の沢


金曜日の朝、山田っさんから「明日、大山どう?」と急な誘いがあった。土曜日は夕方から仕事の予定が入っていたため、その誘いは諦めていたが、これまた急遽、土曜日の仕事がキャンセルとなった。この時点で、マニアB師匠と杉を誘ったが、杉だけが参加の意向を示し、三人で土曜日に大山へ行くことが決定された。
早朝2時に杉と萩を出発し、3時に徳地で山田っさんと合流し、大山へ向かった。今までの大山バックカントリーでは、北側の夏山登山道を登り、6合目か8合目から滑走していたが、今回は、山田っさんから、南側の未知なる“三の沢”へ行ってみようと提案を受けていた。

奥大山スキー場付近に到着し、この地点から約2メートルの積雪が残り通行止めとなっている県道45号線を約4km歩いて三の沢へ向かう。道路上に積もった雪の上は、平坦でなだらかで、とても歩きやすい。道路標識やカーブミラーが辛うじて頭を覗かせている状況が印象的だ。途中、道路をショートカットしてブナの林を抜けたりしながら、そして、時々顔を覗かせる大山の南壁や、眼下に広がる山並み等の景色を楽しみながら歩いていると、苦労もなく、三の沢に到着した。

この日、山田っさんは、槍ヶ峰まで登りそこから滑走する予定であるが、そこは絶壁であり、自信のない俺と杉は、6合目付近から滑走することにしていた。このため、三の沢入口からは、山田っさんは先行して単独で槍ヶ峰を目指し、俺と杉は、槍ヶ峰へのルート上の6合目付近をゆっくりと目指した。

三の沢は、約1kmにわたるなだらかな沢であり、コンクリートの堰堤が幾重にも連なっているが、そのほとんどが積雪で埋まっている。沢の積雪は自然のハーフパイプを形成しており、その上、堰堤上の積雪が滑走面の変化を造形し、滑走にはこの上なく楽しそうなルートである。沢沿いのブナ林を登りながら、その滑走を想定するだけで、心は高揚してしまう。そのブナ林においても、木々の間隔が適度であり、ツリーランに持って来いだ!ハーフパイプを攻めるのか、ツリーランを楽しむのか、幸せな悩みを抱えながら歩みを進め、三の沢の最後にある大堰堤に到着した。

大堰堤を越えると、今度は大雪原が目の前に広がる。この大雪原の滑走も楽しそうであるが、その背後には、積雪の間に覗く雄々しい大山の岩肌も目前に迫り、雄大な自然の中に身を置いている悦びも相まって、幸福感に満ち溢れてくる。
この辺りから、傾斜もきつくなり始めるが、間違いなく楽しい滑走に備えて貧弱な体力を温存するため、ゆっくりと、ゆっくりと登って行く。顔を上げれば、槍ヶ峰を目指している山田っさんが随分と先で、既に小さな黒い点となって、急傾斜をよじ登って行くのが見える。
我々が六合目付近に到着する頃、山田っさんも槍ヶ峰に到着し、携帯電話で「今から滑り降りるよ。」と連絡があった。山田っさんの滑走を動画に収めようとカメラを構えて、山田っさんの滑走に備えた。
滑走を始めた山田っさんは、「ヒャッホー!」「ぶち楽しー!」と大声で叫びながら滑り降りてくる。そのテンションの上がりようは、仲間としては聊か恥ずかしい程であるものの、確かに楽しそうだ。誰もシュプールを描いていない標高差200mを越える急な斜面を、一気に下り、バックカントリーの醍醐味を満喫していた。最後には、何故か「俺サイコーっ!」と絶叫しており、もう理解不能である。某テレビ番組で「天国じじい」と称される登山家がいるが、山田っさんの山好きも常軌を逸しており「天国おっさん」と呼ばれるに相応しいかもしれない。

山田っさんと合流すると、滑走に備え、軽く腹を満たし暖かいコーヒーを飲みながら休憩した。毎回の事ではあるが“マメ”な杉は、ランチョンマットをひき、コーヒーをドリップしサンドイッチと一緒にオシャレなランチを楽しんでいる。Facebook好きの杉にとっては、欠かせない写真素材の一つとなるのだ。

さぁ、休憩を終え、いよいよ楽しい滑走の始まりだ。これまでのバックカントリーでは、登り終えた時点で貧弱な足腰が悲鳴を上げており、正直、滑走を心底楽しいと感じたことはあまりなかった。しかし、今回は緩やかなコースを登ってきたおかげで、貧弱な足腰もまだ余力を残している。しかも滑走コースは、とても楽しそうな刺激的な斜面ばかりであり、滑走に向け心躍るという初めての感覚に浸っていた。
いざ滑り始めると、雪質は最高、誰も荒らしていないスキー場のゲレンデの様に凹凸のない雪面、程よい傾斜、素晴らしい景色。なるほど、山田っさんがおかしな雄叫びを上げる意味が理解できる。もう、気持ちの高ぶりを抑えることは出来ない。大雪原を優雅に滑走し、三の沢のハーフパイプを気の向くままに楽しみ、スリルのあるツリーランも満喫し、一気に三の沢入口まで滑り降りた。
帰りの県道45号線は、一部に上りがあり歩かなければいけない区間はあれど、道路沿いに快適に滑り降り、途中、道路脇の斜面を降下し、ツリーランを楽しんだりしながら、気が付くと、あっという間に出発点に戻ってしまっていた。
あまりにも楽しく、もう終わってしまったのかと残念に思った。高所恐怖症であり、体力も不十分である、そんな俺がバックカントリーに求めているもの全てがここにはあった。大山、三の沢、ここにはまた何度か足を運ぶこととなるだろう。この場所に導いてくれた山田っさんに感謝である。



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