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自転車ツーリング 〜須佐

イッコーさんという男がいる。いや、そのIKKOさんではない。このイッコーさんはそのIKKOさんと違い口数が少ない。痩せ型で色白、若干長めの髪にパーマをかけ、メガネをかけている。見た目は俺と同種の中性的な感じだ。特に自己主張をしないが芯が無いわけではない。あまり喋らないが人と関わることを嫌ってはいない。人畜無害な性格である。

イッコーさんはトランペッターで、見た目を裏切らず今まで特に運動をした事は無いと言う。
そんな文科系のイッコーさんと体育会系の俺には接点がなかった。俺も音楽は好きだが、ハードロックやメタルがメインで過去にはギターも弾いていた。イッコーさんはトランペットで聖者の行進しか吹かないのだろうから、ここにも接点がなく、完全に住む世界が違ったのだ。
が、イッコーさんは、何故か昨年7月にトランペットを捨てて自転車を買った。数年前に仕事で知り合ったイッコーさんだが、ここに来て初めて接点が出来た。
という事で"ようこそ、こちらの世界へ"と、こちらの世界の先輩として、自転車ツーリングに誘った。ついでに同級生も一人誘って。
ツーリングは、萩から須佐へ行き、須佐駅前の「梅乃葉」で活きイカ定食を食べて帰る行程で、往復約80kmだ。海岸沿いのコースで、起伏もさほどない。
実は、過去一年、カヤックばかり乗っていて自転車にはほとんど乗らなかった俺は、80kmの行程が不安だった。しかし、こちらの世界の先輩として、後輩に猛々しい姿を見せなければいけない。
萩を出発し、こちらの世界の後輩に馬鹿にされないよう、俺に付いて来いとばかりにそこそこのスピードで走るだが、分かってはいたが、まだ5kmも走らないうちに腿がヤバくなってきた。“いかん。とても須佐もでもたん。”と、こう思いながら必死にペダルを回し続けた。
一方、文科系のイッコーさんはというと、涼しい顔で「みんなで走るって楽しいですね。一人で走る事が多かったから。」と軽い足取りでペダルを回している。
もうダメだ。これ以上ごまかしは通用しそうにない。こちらの世界の後輩の勝ちだ。しかし、あえて負けを認める必要も無い。「ゆっくり走ってるだけですよ〜。」って感じに普通にしとけばいい。普通に。
須佐の手前で長いトンネルを避けるため、旧道を4.5km上る。
ここでとうとうイッコーさんは、我慢出来ず、先にスーっと上って行った。しばらくすると、今度は上からスーっと下りて来た。で、「もうすぐ頂上ですよ〜。」と教えてくれ、我々と一緒に再び上り始めた。
『おかわり』である。上り坂の。体力に余裕のある者だけに許される『おかわり』だ。ああ、そうだとも。こちらの世界の先輩の負けだが、まだ認めてはいない。
そしてようやく須佐に到着した。もう膝はガクガクだ。正直、もう帰りたくない。できる事なら、車の迎えを呼びたいくらいだ。
何はともあれ梅乃葉に入り、活きイカ定食を注文する。イッコーさんは『大盛り』で注文したが『おかわりじゃないんかい!』と突っ込む元気も無い。
食事を終え、須佐駅の駐車場で少しばかり休憩した。頭の中で“帰りが辛いなぁ〜。どうするかなぁ〜。”と考えながらみんなと雑談をしていた。イッコーさんは、事前に須佐についてネットで調べたら、名物はイカとホルンフェルスの二つだけだったと。で、イカは食べたので、ホルンフェルスに行きたいと言い出したのだ!
何ですと!大変なことだ!ホルンフェルスは萩とは反対方向だ。明らかに走行距離が伸びてしまう!俺の足腰はそれに耐えられる状況には無い。
だが、弱音を吐くわけにはいかない。こちらの世界の先輩として負けを認めてはいかんのだ!口を突いて出た言葉は「よーしゃ。行こう行こう!」だった。
ここから先は、ただ辛さとの闘いだった。周りに誰もいなければ泣いていたかもしれない。
帰りに文科系のイッコーさんに「自転車どんくらい乗りよん?」と聞いてみた。イッコーさんは自転車購入以降、月平均200kmを超える距離を乗っているらしい。俺の負けだ。認めないが。
イッコーさんは、もう、立派なこちらの世界の人だった。



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