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三瓶山 Backcountry & 三瓶温泉


気になる三瓶山

先週末は、大山へバックカントリーに行ったが、予報では天候が荒れそうだったため、山田リーダーは三瓶山等のバックアップ案を用意していた。
結果的には、天候も当初の予報ほど悪くなく大山へ行ったのだが、それ以降、どうやら山田リーダーは三瓶山が気になっていたようで、早速、三瓶山へ行かないかと誘いがあり、この日を迎えた。

ルーチンカレー

この日の参加者は、山田リーダー、杉、そして俺の三人。杉と俺は萩から出発し、防府から出発の山田リーダーと益田で落ち合い、そこから山陰経由で三瓶山へ向かった。
大山へ行く際には定番となりつつある朝のポプラカレーだが、山陰ルートはローソン・ポプラの宝庫である。山陰道の途切れる江津で早速ローソン・ポプラに立ち寄った。
前回の大山行きで、林君は自分が我慢して山田リーダーに対し残り一つのカレーを譲るという敬意を払ったが、もし、今回も同様な状況であった場合に、杉と俺が同じ行動をとれるのかどうかが試される場面となる。
正直、杉と俺には無理である気はしていたが、山田リーダーはそれを察知したかのように、真っ先に、そして一目散にカレーの陳列棚へ向かった。
するとそこには有り余る在庫が並んでおり、今から愉しいバックカントリーへ向かうに当たり、何の摩擦も無く、皆で仲良くカレーを食べる事が出来た。

三瓶山の後の計画

山田リーダーには、高校生の頃、夏に三瓶山に登った際、三瓶温泉にも行った思い出があるようで、今回、是非とも帰りには思い出の三瓶温泉につかって温まりたいとの強い意向があった。
三瓶温泉の公衆浴場には「鶴の湯」と「亀の湯」があるようで、三瓶山到着までに山田リーダーと杉が鶴亀どちらにするかと議論し「亀の湯」行きが決まったことを、温泉に特に興味のない俺は横で聞いていた。

登山開始

三瓶山は、室の内と呼ばれる火口を男三瓶山、女三瓶山、子三瓶山、孫三瓶山等の6つの峰が取り囲む活火山である。主峰の男三瓶山の標高は1,126m。
今回は、三瓶山東側の「東の原」から今は営業していないスキー場を経由して「女三瓶山」を目指す。地形図からは火口への滑走も楽しそうなのでそれも視野に入れてはいるが、三瓶山は初バックカントリーなので現地の状況次第だ。
準備を整え、旧スキー場を歩きはじめる。

女三瓶山登頂

出発点である東の原の標高は550m。
旧スキー場の最上部(標高825m)を過ぎ、太平山の山頂直下を迂回し、低木の茂る女三瓶山への登山道を歩く。出発して1時間30分で女三瓶山山頂(標高957m)に到着した。
山頂付近の展望台からは、室の内(火口)やそれを囲む各峰が見渡せる。見る限り火口へ向けて滑走できそうなポイントは、男三瓶山くらいしかない。その他の斜面は木が生い茂り、とても快適な滑走は望めそうになかった。
この日も寒波が到来しており、九州や四国の高速道路が積雪で通行止めになるほどだった。山田リーダー曰く、朝は防府市でも10cmの積雪があったとのことだが、これは山田リーダーが集合場所に遅刻してきたので、言い訳のために嘘をついている可能性がある。
この寒波の影響で、女三瓶山頂も風が強い。風速十数メートルくらいだろうが、ザックに固定しているスノーボードが風を受け、足元がおぼつかなくなってしまう。重ねて時折吹雪で視界が奪われてしまうし、今以上に天候が悪くなる可能性もある。この状況で、男三瓶まで尾根を縦走することは危険を伴うため、登ってきたルートを戻ることにした。

女三瓶山滑走

女三瓶山山頂で、強風の中、滑走準備を整えた。
杉がスノーボードを雪に突き刺し、ザックにスノーシューを収納していた時、強風でスノーボードが倒れ、そのまま火口方向に滑り落ち始めた。本人は気付かずに作業していたが山田リーダーが気付き、杉は必至で走りスノーボードを何とか捕まえ難を逃れたが、一歩間違えば面倒なことになるところだった。
女三瓶山頂からは、細い登山道を中心に低木の茂る斜面を滑走する。が、滑走にならない。滑走ルートの幅は狭く、見通しもきかず、枝も避けなければいけない。
滑っては枝を避け、ヘアピンカーブを曲がると次の枝を避けきれずコケる。こんなことを繰り返しながら、何とか旧スキー場最上部付近まで滑り(転がり?)降りたのだが、滑走としては楽しめてないはずなのに何故か楽しかった。

展望小屋で休憩

ゲレンデ最上部付近に展望小屋のような所があり、ここで有難く風雪を避けながら昼食をとることにした。
展望小屋に入ってすぐ、杉が「俺のiPhoneがないっ!」と言い始めた。
杉のiPhoneは最新のiPhoneXであり、もちろん機種変更したばかり。それを紛失することはかなりのショックではあるが、それ以上に、杉にとってiPhoneXを使ったこの日最も重要な儀式がこの直後に行われる予定であるため、iPhoneXの紛失はとてつもない大問題なのだ。
最後にiPhoneXを使ったのはこの地点からそう遠くないため、落とした範囲はある程度特定できるが、雪に埋もれてしまっていれば捜索は困難を極めるだろう。そう思われたが、幸いにして、短時間の探索でiPhoneXは無事発見できた。

杉の重要儀式

展望小屋で昼食の準備をしていると、いつもどおり、杉はランチョンマットを広げ、そこに本日のメニューを綺麗にレイアウトしiPhoneXで彼の愛して止まないSNS映えのする写真を撮影するという重要儀式を始めた。
杉は、雪山登山やスノーボードも楽しんではいるが、杉にとってはこれがバックカントリーでの最重要目的である。
撮影された写真は、確かにSNS映えする写真だ。
しかし、それを撮影している杉の姿は全くSNS映えしないが、Wild Life映えはしている。
暖かいラーメンをシェアしながら冷えた身体を温め、腹も満たし、旧スキー場の滑走へと向かった。

旧スキー場滑走

バックカントリーに来て、リフトという人工物のある見た目がコテコテのゲレンデを滑ることは聊かプライドに反する部分はある。しかし、バックカントリーの主目的には、誰も荒らしていない綺麗な雪の斜面にシュプールを描ける喜びが含まれるが、旧スキー場の滑走は、これに反していない。
そう自分に言い聞かせながら、前向きな気持ちで旧スキー場を滑走する。
多少、ブッシュが頭を覗かせてはいるものの、滑走には邪魔にならず、逆にコース取りの楽しみを与えてくれた。
広々とした旧スキー場を自由自在に、一気に麓まで滑り降りた。

登り返し

この日は標高差約400m程度しか登っていないので、まだ余力が残っている。しかも何だかんだ言っても誰もいない旧スキー場を滑るのは楽しい。なので、旧スキー場部分を登り返し、先ほどの斜面と反対側のまだ綺麗な斜面をもう一度滑ることにした。
目的の地点に近づくころ、奇跡的に青空が覗き、日が差し始めた。
今まで吹雪に隠れていた三瓶山や周囲の山々が鮮明に現れ、爽快な景色が視界に飛び込んでくる。誰の足跡もない雪面は太陽光を反射しキラキラと輝く。さっきまでは単なる“雪景色”であったが、これが正しく“白銀”の世界だと気付かされる。
その感動のまま、そして全てから解放されたかのような錯覚を感じながら、再び誰も荒らしていない斜面を爽快に滑り降りた。

亀の湯

車に戻ると、冷えきった身体を温めようと、早速「亀の湯」へ向かった。温泉には特に興味のない俺だが、冷えきった身体を温める意味で温泉に行くことには肯定的である。
三瓶山東の原からは10分程度だろうか、亀の湯にはすぐに到着した。今から温かい温泉に浸かることが出来ると思うと、正直嬉しい。
亀の湯は、誰もいない公衆浴場で料金箱に入浴料を入れるシステムとなっている。先客もいない貸し切り状態だ。
早く体を温めようと急いで服を脱ぎ、浴室に入り、かかり湯をした時、思わず「ぬるっ!」と声が出てしまった。湯が温かくないのだ。
引き続き湯船に入るが、やはりぬるい。もしかすると、しばらく浸かっていたら温かくなってくるのかとも思ったが、そうでもない。全く体が温もらないどころか、逆に寒くなってきている。
山田さんが蛇口から出てくるお湯の方が温かいと言うので、蛇口からのお湯に暖を求めるが、確かに僅か暖かい“気がする”だけで蛇口から出てくるお湯にあたらない部分は激烈に寒い。なのでやむを得ず再び湯船に入る。
後から分かった話だが、ここの温泉は源泉かけ流しではあるが、その温度は約37度。この時の外気温はマイナス3度。どう考えても37度よりは低くなっているはずである。
湯船から出ると濡れて冷えた身体をマイナス3度の空気に晒すこととなるので、出る勇気がない。三人は、湯船に浸かったまま、早く出たいのに出たくないという葛藤の中、出るタイミングをうかがい続けた。
しかし、こんな辛い環境の中で三人は笑っている。もう笑うしかないのだ。そして体を温めるために丸い湯船の中をぐるぐる回るなど、あらゆる努力をしてみたが全ての行動は良い結果には繋がらない。
やれるだけの事はやったので諦めと言う名の決心がつき、意を決し湯船から出て体を拭き、急いで車へ戻った。
亀の湯を出る時にやっと気付いたが、入り口に小さく加熱時間は17時からと書かれていた。それなら、そもそも閉めとけよ。

鶴の湯

車に戻ったものの、排気量4,200ccのランクルのエンジンはマイナス3度の外気温の中、なかなか温まらず、亀の湯で冷えきった身体の対処に苦慮する。それ以上に、温かい温泉を楽しみにしていた気持ちが不完全燃焼極まりない。
三瓶温泉には、もう一つ「鶴の湯」という公衆浴場がある。だからと言って鶴の湯が温かい保証はないし、亀の湯の件で既に鶴の湯に対しても疑心暗鬼である。だが、寒さと不完全燃焼感が一応鶴の湯も見に行ってみようという衝動を駆り立てた。
鶴の湯に到着し、入ってみるとここも料金箱制で誰もいない。チケット販売機で入浴券を買って料金箱に入れるシステムだが、チケットを購入する前に、まず浴室へ行き、湯船の湯加減を確認した。
すると、とても温かい我々の追い求めていた湯加減だったので、速攻でチケットを購入し、湯船に浸かった。
温かい温泉には有難さを感じたが、改めて考えるとこれが世間の“普通”なのではないだろうか?
おかげで身体はポカポカに温まったのだが、まさか温泉をはしごすることになるとは思いもしなかった。これでやっと心も身体も帰路に着く準備が整った。
因みにこの翌日、山田リーダーは風邪をひいたらしい。


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