今回の経緯
1月中旬のことである。昨年夏の富士山登山以降、登山にハマっている船山ちゃんから、2月3日に寂地山に登りたいと持ちかけられた。ちょうどその頃、寒波が到来しており、1月下旬にも寒波が再来する見込みであるという情報も既にあった。俺は寂地山には一度だけ登ったことはあるが、冬の寂地山は初めてである。寒波に寒波を重ねた後のことでもあり、自信がなかったので、山が大好きな山田っさんを誘ってみた。
すると山田っさんは「行くなら大山じゃろっ!」と寂地山を一蹴。そして大山行きが決定した。
船山ちゃん初Back Country
寂地山は冬山登山前提であったが、山田さんの言う大山はバックカントリー前提である。しかし、約一ヶ月前にスノーボードを始めたばかりのはずである船山ちゃんは、何の不安も見せず、バックカントリー行きを大喜びで受け入れた。因みに、船山ちゃんは登山経験4回、スノーボードはゲレンデ経験4回。それぞれの5回目が、突然、大山のバックカントリーである。勇気ある青年だ。
ルーチンカレー
今回の参加者は、リーダー山田っさん、マニアB師匠、山田っさんの知り合いの林君、船山ちゃん、そして俺の5人だ。大山が近づくと、まずはコンビニでカレーを食べる文化が最近定着しつつある。
今回参加者の中では最年長者である山田っさん。しかも山に行ったとき(だけ)は、一応リーダーである。そんな山田っさんに一切気を使わない我々に対し、林君は素晴らしい気使い、そして優しさ、敬意を見せていた。
林君以外のメンバーは、全くデリカシーがなく、自分の事しか考えない、人の優しさも感じ取れない、残念な面々なのである。
登山開始
MSRのスノーシューを新調した船山ちゃんのワクワクは止まらない。昨夜も遠足前夜のように3時間しか眠れなかったらしい。そしていよいよ、船山ちゃんにとって、初体験の、そして憧れの大山バックカントリーが今始まろうとしているのだ。
初心者船山利用
だが、それでも休憩したい気持ちから、その誇りが歪んだ形で表れてしまう。
- 俺「船山ちゃん、休憩したいんじゃない?」
- 船山ちゃん「いや、大丈夫っす!」
- 俺「無理せんでええよ。」
- 船山ちゃん「いや、まだまだ大丈夫っす!」
- 俺「ホントに?無理しよんじゃないん?」
- マニアB師匠「そうそう、無理せんでええよ。」
- 船山ちゃん「マジで、大丈夫なんすけど・・。」
- マニアB師匠「そういうの、初心者はヤリがちなんよねぇ。初心者は。」
- 船山ちゃん「えっ・・・?そうなんすか・・?」
- マニアB師匠「初心者はすぐ無理するからねぇ。別に俺らは休憩したい訳じゃないけど。」
- 俺「俺らはええんじゃけどね。船山ちゃん休憩したいんやろ?」
- 船山ちゃん「・・・んじゃぁ、休憩したいっす・・・。」
- 俺「しょうがねぇなぁ。そんなら休憩しよっかぁ。」
- マニアB師匠「んん。初心者が言うならしょうがないねぇ。」
船山ちゃん第一の悲劇
最近、急激にアウトドアグッズを買い漁り始めた中の一品だろうが「3層構造で丈夫」が売りのPlatypusに何故か裂け目があり、そこから水が漏れていた。
この悲劇は、初心者船山にとって、まだ序の口でしかなかった。
大山と対面
三の沢へ向かう途中、突然視界が開け、眼前にそびえる迫力の大山と初対面できるポイントがある。ところが、良い意味で期待は裏切られ、時折青空が覗く想定外の天気であり、この大山との初対面ポイントでも、爽快な景色を楽しめ、テンションも高まった。
もちろん、初心者船山も引き続き意気揚々としている。
遥かなる三の沢大堰堤
天気は目まぐるしく変わり、青空が覗き日が差すと暑くなるが、日が陰ったと思えば凍えるほど強く冷たい風が吹き、雪が顔を叩き付け、体温調節に苦労する。
腹が減ってきたこともあって黙々と歩いていると、マニアB師匠が「大堰堤まであとどのくらいあるん?」と尋ねてきた。まだ沢に入ってそれほど進んでないので「まだしばらくあると思いますよ。」と答え、また黙々と歩いた。
しかし、何故か歩いても歩いても大堰堤に近づかない。銀世界の中の巨大構造物であり距離感覚が掴めていないのだろうか?それからも同様に歩けども歩けども大堰堤には近づけない。
とうとうマニアB師匠は「あの大堰堤は動きよるんじゃないん?国土交通省ならやりかねん。」と言い可動式堰堤の可能性を疑い始めた。
因みにマニアB師匠は土木関係の優秀な技術者であるはずだ。
大堰堤越え
“あいつら・・・。もう楽しんでやがる!”と思いながらも、大堰堤の脇の急な斜面をジグザグと登るが、スノーシューを履いた足がパウダースノーで腿まで埋まり、何とか一歩を踏み出しても、踏みつけたパウダースノーは滑り、踏み出した足が、結局元の位置に戻ってしまう。
そんなことを繰り返しながら、少しずつ前進し、何とか大堰堤を越えることができたが、体力の消耗は著しかった。
初心者船山 第二の悲劇
堰堤を越えると、既に滑走を楽しんだ山田っさんと林君と合流し、激烈に腹が減っていたので早速昼食にした。その事は俺も以前体験済みで、山田っさんからもマニアB師匠からもバカにされた経験がある。それ以降もしつこくバカにされ続けている。この日も「あの時は・・・」とバカにしやがった。
その経験をもとに、前もって初心者船山に説明はしていたが、本人は微かな期待を胸にクッカーに水を入れ、火を着けた。
しかし、やはり火は着かない。何度やっても着かない。初心者船山は悔し紛れに、クッカーに入れた冷たい水を飲み「あ~、美味いっ!」と言ったが、寂しかったに違いない。
初心者船山のラーメンには、俺のJETBOIL Micromoであっという間に湯を沸かし、入れてやった。
林君
改めてそう考えると、たかが日帰りのバックカントリーで、何故わざわざJETBOILや水をザックに入れ、何故わざわざ湯を沸かして、何故わざわざ3分待っているのか、よく分からなくなってしまう。
そんな根本論を俺に考えさせるこの林君、見た目は真面目で誠実そうで、性格は穏やかで親切で優しい。体力のある大の山好きである。この上ない好青年である。
だが、俺の知る山が好きな人間にまともな奴はいない。今まで俺の周りの山好きがたまたまそうだったのかもしれないが、例外なくまともな奴はいない。
今回は初対面だったこともあるだろうから、次回以降、徐々に化けの皮は剥がれていくに違いない。
因みにこの林君、今まで俺とは一切接点がない状態で、このWild Lifeを読んでいてくれたらしい。しかも「途中、リニューアルもしましたよね。」とよくご存じだった。とても嬉しい事だ。その林君も、まさか自分がこのサイトに登場し、いぢられる日が来るとは思いもしなかっただろう。
最後の登り
マニアB師匠は自分の体力を考え途中で待機していたが、初心者船山は根性で登った。
山田っさん、林君滑走
1,640m付近から、一面パウダーでゲレンデ並みの斜面を滑走する。斜面を見下ろし、今からこの斜面を滑ることができるのかと思うと、喜びが満ち溢れてくる。先に登り、準備を整えていた山田っさんと林君が順番に出発した。その直後に俺も滑ることが出来るのに、見ていると羨ましくてたまらない。とても気持ちよさそうだ。
二人とも、歓喜の奇声を上げながら、一気に滑り降りた。
初心者船山 第三の悲劇
続いて、俺と初心者船山の番だ。準備を整え、いよいよブーツをビンディングに固定した。
初心者船山も同様にブーツをビンディングに固定しようとした時「いたたたた・・。脚が攣った。」と言いだした。両方の腿が攣ったようだ。ここに来るまで、興奮のあまり頑張りすぎたのだろう。初心者船山の両脚は限界に近かった。
腿の筋肉を伸ばし、しばらくゆっくりしていたら何とか復活できたようだが、基本、攣るほどの状況であれば、後は滑走できるような状態にはならない。
しかし、今は斜面の上。コケながらでも、転がってでも、滑り降りるしかない。
とりあえず、俺は斜面を堪能し、マニアB師匠の待つ地点で初心者船山の滑走を見守った。
初心者船山は、コケては立ち、コケては足の回復を待ち、を繰り返しながら、何とか滑り降りてきた。
初心者船山 第四の悲劇
初心者船山の脚の状態が気になるが、山田リーダーが時間的に余裕はないと言う。この時点で15時。確かにゆっくりもしていられない。この埋もれ地獄は、極端に体力を消耗する。そして埋もれ地獄を始めて経験すると、どんどん体力が消耗してゆく中、雪山という環境であり、もしかすると動けなくなり下山できずに低体温症で死んでしまうのではないかといった不安も伴う。その不安から余計にでももがき、必要以上に体力を消耗するというスパイラルに入ってしまうのだ。
限界寸前の初心者船山
誰もが“このままでは、下山するのに相当な時間を要してしまう。ちょっとヤバいな。”と思っていただろう。何より、初心者船山がそう思っていたはずだ。だが、みんなで楽しむためにここへ来たのだから、誰も「もう歩いて降りろ。」とは口に出さなかった。本人も言い出せなかっただろう。
初心者船山は、精も根も尽き果てていた。そして、「飲み物をもらえますか?出来たら、荷物も持ってもらえませんか?」と言う。俺は少し戸惑った。荷物を持つことではなく、弱音ともとれる言葉を聞いたからだ。
雪山で怪我をしたり体調不良になったりすると命に係わる場合があるが、心が折れない限りは助かる可能性は残っている。しかし、心が折れてしまった瞬間、死神が迎えにやってくるだろう。今回は仲間がいるから何とかなるだろうが、それでもチーム全体に危険が及ぶ可能性もゼロではない。
リーダーの決断
初心者船山は、根性を見せて頑張った。しかし結果は伴わず、時間だけが経過していく。俺は本人が頑張ろうとしている以上、見守るしかないと考えていた。しかし、一応リーダーの山田っさんが口を開いた。「船山ちゃん、スノーシュー履いて歩いて降りようか。」と。
山田っさんと出会って7年、初めて尊敬した。明日からは、俺も山田っさんのためにカレーライスを残してカレーパンを買う努力をしてみようと思った。
全員下山
明るいうちに、無事、全員下山した。色々な出来ことはあったが、十分に楽しめた。初心者船山に感想を聞いてみると、特に反省の色はなく、もっとスノボを上達させたいと、とても前向きだった。その前向きさが生きる上ではとても大切なことだと、俺は思う。だが、どんなに上達しようが、もう名前は初心者船山のままである。
また皆でバックカントリーをしようと約束して、大山を後にした。
Relive '大山三の沢 Backcountry'
さすが船山ちゃんでしたね~(笑)
返信削除でもめっちゃ楽しそう...!
来年こそは私も行きたいです!