解禁初日
3月1日は渓流が解禁される日であり、毎年この日は、何をおいても渓流へ向かう。今年も例外ではない。
新型コロナウイルス対応等、仕事が輻輳しているはずのマニアAと、意気揚々といつもの渓流へ向かった。
ドライフライ至上主義
早速渓流に降り立ち、ロッドを振る。しかし、魚の反応は皆無である。
我々は、ドライフライをこよなく好む。ドライフライは、羽化した虫を模した毛ばりであり、水中の幼生が羽化したばかり、或いは羽虫が水面に落ちた状態を演出する。
ドライフライは、水面に浮く毛ばりであるため、魚が食い付く瞬間が目で見えるので、刺激的でとても面白い。
しかし、まだ、幼生が羽化していない状態の時は、ニンフという水中に沈む幼生を模した毛ばりを使わなければ、魚は反応してくれない。
この日もドライフライを使っていたが、一切の反応がないため、ニンフを使った方が良いかもしれない。
しかし、マニアAも俺もフライボックスにはニンフを忍ばせているものの、ニンフを使おうとしない。
状況から、お互いがお互いにニンフの使用を勧めるが、譲り合うばかりで使おうとしない。
だって、ニンフの釣りは面白くないのだ。
浄水ボトル
あまりにも釣れないので、早めに昼食休憩をとり、気温が上がって幼生が羽化する可能性を待つことにした。ここで、マニアAは、新たに調達したグッズを披露してくれた。
水を浄化する道具で、エキノコックス等の寄生虫の卵やバクテリアのみならず、ウィルスまで除去してくれるという、GRAYLのUL.ウォーターピュリファイヤーボトルだ。
このボトルがあれば、人里離れたロングトレイルや災害時に飲料水を確保でき、生命の維持に威力を発揮するだろう、優れたグッズだ。
しかし、ここは上流に民家もなく、足元に美しく澄んだ水の流れる渓流である。
前シーズンまで、マニアAも単にその水を煮沸して使っていたし、それで何も問題はなかった。
マニアAは、今回から、この渓流の水を浄化して昼飯に使うらしい。
マニアAは、早速ボトルに渓流の水を入れプレスし浄化された水を作る。プレスは水を密なフィルターに通過させるため、それなりに力をかける必要がありそうで、非力なマニアAには辛そうで、苦労しいる。
俺の頭の中には、「糠に釘」とか「骨折り損のくたびれ儲け」とかいうことわざが浮かぶが、その水で湯を沸かし、満足そうにカップラーメンを食べるマニアAを見ると、そのことわざを口に出すことは出来ない。
食後には、引き続き浄化した水を沸かして、コーヒーを飲む。
マニアAは、浄化した水を使ったコーヒーには甘みを感じると言うが、そのコーヒーには砂糖がたっぷり入っている。
しかし、新しく手にしたグッズを早速使ってみたくなるそのときめきは理解できるし、いずれ行くだろう九重の坊ガツルキャンプでは、この浄水ボトルが大活躍するだろう。
状況の変化
昼食休憩時から、渓流の流れる谷間には日差しが届きはじめ、気温も上がり始めた。それを待っていたかのように飛ぶ羽虫がちらほら確認できる。
日差しがあればよいのか、気温が何度になれば良いのか等の明確な理論は分からないが、経験から魚の活性が上がる状況が揃ったように感じる。
根拠のない期待感は大きく膨らみ、勇んで釣りを再開する。
魚が反応する
それから間もなく、マニアAのドライフライに魚の反応があったが、残念ながら針にフックしなかった。昼食前まで、一切の反応が無かったことから、魚が反応し始めた状況に気持ちが一気に高揚していく。
そして、交代して俺が上流へ釣り上がっていく。
少し深みのある静かな流れに、”食い付け!食い付けっ!”と念じながら、ドライフライをゆったりと流す。
はやる気持ちを抑えながら、静かな流れに浮くフライを凝視していると、底から、ぬーっとゆっくり魚体がフライを目指して浮いてきた。
そして、フライに食い付いた。
よっしゃぁ!とばかりに、フライラインを手繰り、魚を釣り上げた。
初物
今シーズン初のゴギだ。サイズは小さめだが、喜びは大きい。
フライフィッシングの技術ではマニアAの足元にも及ばないが、そのマニアAよりも先に釣り上げたという喜びも小さくはない。
立場逆転
釣り上げた魚を自慢げにマニアAに見せ、カメラに収める。ここで交代し、マニアAが上流へ釣り上がるが、俺は余裕しゃくしゃくといった感じに、その後姿を見つめる。
マニアAは、魚に気付かれないようにじわりじわりとポイントに近付き、大物が潜んでそうな深みを見つめ、魚の存在とフライを落とすポイントを見極めている。
今日は、やっと一本上がったばかりで、まだ、魚の活性が高いと言える状態が確認できたとは言えない。
どうせ、ここのポイントでもマニアAは釣れないだろうから、このポイントを攻め終わったら「まだ釣れてないの?」とからかってやろうと思っていた。
水面を静かに凝視していたマニアAが、やっとロッドを振った。
そして、静かにフライを水面に浮かべるや否や、フライに激しく魚が食い付き、同時にロッドが大きくしなった。
予想に反するその結果に衝撃を受けながら、直ぐにフライラインを手繰るマニアAのもとに駆け寄り、魚を確認する。
釣り上げた魚は、立派なゴギで、俺が釣った初物とは比べのものにならない程大きい。
マニアAは、満面の笑みであるが、その笑顔が憎たらしい。
俺は、次回の釣行での復讐を誓った。
最強フロータント
その後は、特筆すべき釣果はなかったが、この日は、釣果に関わらず嬉しいこともあった。ドライフライは水面に浮くが、その張力はフロータントによるものでり、フロータントなしではドライフライと言えども水に沈んでしまう。
フロータントには、ジェル、スプレー、パウダー等、色々な種類があり、これをフライに塗布することで、フライに撥水効果が生まれ水に浮く。
このフロータントは、フライを何度か投げると効果が薄れてくるので、度々、ティッシュ等でフライの水分を取り除き、フロータントを塗布するという作業が発生する。
この作業が思いの外面倒であるため、ドライフライ至上主義の我々は、常により良いフロータントを探し求めており、その旅の途上で迷子になっていた。
そして、今回、ネットで最強との呼び声高いフロータントを発見したので、新たに導入してみた。
驚くことに、このフロータントはフロータントではない。言ってる意味が分からないだろうが、これは、AZというメーカーのBGR-001という商品で自転車用のフッ素グリスである。
面白いことに、この商品、Amazonでの評価が高いのだが、レビューは自転車用としてではなく、フロータントとしての書き込みの方が多いのだ。
ネット上でも「AZ フロータント」で検索すると、AZが油脂類を販売する会社でフロータントとは一切関係ないにもかかわらず、フライフィッシャーらが様々な情報をアップしている。
実際に使ってみると、浮力は申し分なく、持続力も凄い。一度塗り込むと半日は効果を継続する。滝も怖くない。
持続力があることから使用頻度が低く、使用量も少なくすむため、コストメリットが大きい。フロータントとして販売されている物よりもずっと安くすむ。
フロータント探しの旅もゴールを迎え、最強のフロータントに出会えた。こんなに嬉しいことはない。
この自転車用の商品をフロータントに流用した第一人者に称賛を送りたい。
0 コメント:
コメントを投稿