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Fly Fishing ~尺ゴギ~

気持ちの乗らない朝

朝、起きると雨が降っていた。雨脚も弱くない。
ちょうどこの日から寒気が流れ込み、気温は低く、天候も不安定である。
マニアAと釣行を約束しているが、釣果を望むのであれば、気温は高いほうが良いし日差しも欲しい所であり、このような状況下ではあまりは期待できない。
雨が降りしきる中出発し、マニアAと現地へ向かう頃には雨も上がってきたが、到着間際で道路管理作業の通行止めで大きな迂回を余儀なくされる。
我々の目指す支流に先行者がいれば、マナー上、他の場所を探さざるを得ないので、到着の遅れは致命的だ。
あらゆる条件が、この日の釣行に不利に働いているようで、まるで気分が乗らない。
なので、この日、まさかの瞬間を迎えることなど、予想できようはずもなかった。

憧れの尺ゴギ

ゴギとは、イワナの事であり、中国地方の固有種で源流域に生息する。
ヤマメやアマゴのように人間の手で放流されておらず、昔からそこに棲み続け脈々と代を重ねており、この状態をマニアAは「ネイティヴ」と表現する。
放流された魚を釣ることも楽しいのだが、やはりネイティヴであることが我々の価値観上、とても重要なことである。
人が準備してくれた魚を相手にするのか、自然の魚を相手にするのか、上手く説明は出来ないが、ここに大きな差を感じている。
そんなゴギのうち、大きさが30cmを超えるものは「尺ゴギ」と呼ばれ、これが我々の憧れの対象であり、源流の小さな流れの中からそれほど大きなゴギが釣り上がるとどれだけ刺激的だろうと思うのである。
俺がゴギを狙い始めて今年で8年目を迎えるが、未だ尺ゴギとは出会えていない。
多くは特定の支流に釣行を重ねているが実績は上がっておらず、尺ゴギと出会うためには、新たな支流を開拓しなければいけないのではないか?最近はそう考え始め、他の川への釣行を具体的に計画してもいた。

予想に反しない状況

「もう、この川に魚はおらん。」
地域で生活する住人はそう口にする。
そのつぶやきに我々も迷いが生じている。しかし、流域に民家はなく、川の長さや幅、流量もしっかりしているこの環境の良い支流を信じる気持ちは、まだ完全に失ってはいない。
しかし、この日、釣り上がれども、魚の反応は皆無である。
気温も低く日差しもなく、あられ混じりの雨まで降ってくる始末で、どう考えても状況は良くない。
しかし、天気予報では、昼頃から日差しが見込まれる。
ほんの僅かな期待を胸に、とりあえず、早めの昼飯を食って、日差しを待つことにした。

やっと釣れた一本

昼飯を食っていると、徐々に雲間に青空が覗き始めた。
しかし、気温は低いままであり、魚のエサとなる虫も飛んでいない。
もちろん、今までも一切釣れない日が無かった訳でなく、この日もそうなるのではないかと思っていた。
釣りを再開して間もなく、マニアAが小さな流れ落ちに何度も何度もフライを流していると、やっと一匹のゴギが食い付いてきた。
ゴギに食い気があれば、フライを正しくポイントに落とすと一発で食い付いてくるので、やはり状況はかなり渋いと言えるだろう。
そしてその後も、再び一切の反応が無くなった。

魚を見る目

大型のゴギがよく釣れるポイントにたどり着いた。
ゴギは川底の岩陰に潜んでいることが多いので目視で魚影を確認することは難しいが、食い気のあるゴギは、ゆったりとした流れの表層付近で、水面を流れてくるエサを待っている事がある。
なので、マニアAは、ポイントに入るとまず魚を見ろと言う。その魚を発見できれば、鼻先にフライを流せば間違いなく食い付くのだと。
そして、このポイントでも、マニアAの指導のとおり、魚に気付かれないように近付いて流れに潜む魚影を探した。
岩陰に身を隠し、目視で流れの手前から漏れなく捜索していく。1~2分、しっかりと凝視したが、魚は確認できない。
しかし、マニアAが静かに俺の肩を叩き、無言のまま釣竿で水面を指す。魚が居ると言っているのだろう。
しかし、竿先の示す位置を見ても、魚はいない。
だが、マニアAは明らかに魚が居るという身振りをしている。
やむを得ず、小声でどこに居るのかと尋ね、詳しく説明を受け、その場所を凝視していると、やっと見えた。川底の同色の岩がゴギの魚体を隠しているが、確かに浅場でゆらりゆらりと中層を泳いでいる。
しかもサイズは小さくはない。
マニアAは、この魚を見る目に優れている。そして、これこそが釣果に差を生む所以でもある。

釣らせてもらう

あとは、その魚の鼻先にフライを流せば良いだけである。
フライを落とすポイントは、魚の向こう、1mは必要ないだろう。50cmでは少し短いか?そう考えながらリールからフライラインを引き出し、フライを投げる態勢に入る。
焦る気持ちが抑えきれず、投げる前にラインが木の枝に絡まる。
魚に気付かれないよう、木の枝に絡まったラインを取り除く。
そして、再び態勢を整え、落ち着いてフライを投げる。
しかし、時折吹く逆風に押し戻され、フライは予定より手前に落ちた。魚の鼻先、10cm程度だ。
しまった、と機会をものに出来ない劣等感のようなものに苛まれながらも、修正の利かない流れるフライと、ゆらりゆらりと流れに体を留める魚影を凝視する。
間もなく、フライは無情にも反応しない魚影の右側の水面を通過し始めた。
ダメか・・。そう思った瞬間、川上を向いていた魚体はクルっと俊敏にフライに頭を向け、一瞬の間を空けた後、フライに突進しあっと言う間にフライに食い付いた。
よっしゃぁとばかりにロッドを立てて合わせを入れ、獲物を釣り上げ、歓喜の声を上げる。
釣り上げた魚は、25cm程度の立派なゴギだ。
見える魚を、食い付く瞬間が見えるドライフライで、狙いどおりに釣るということは、この上なく刺激的で楽しいものだ。
しかし、正しく表現すれば、この一本はマニアAに手取り足取り釣らせてもらっている。そこに、素直に喜びきれない心の引っ掛かりはある。
その代わりに、今までマニアAから「よく見ろ」と何度も言われ続けてきたことが、今回、やっと腑に落ちた気がする。次なる成長への課題が明確となったことが、釣れた魚以上に大きな収穫である。

次なる一本

釣り上げたゴギの写真を撮り、リリースし、顔を上げると、マニアAが振り返りながら俺がゴギを釣ったポイントの奥を差し、身振りでもう一匹見つけたことを伝えてきた。
であれば、マニアAもきっと釣れるのだろう。
ふと思い付きで、今までゴギを釣り上げる瞬間を動画に収めたことはないなぁと、スマホのカメラを起動して動画撮影を開始した。
マニアAの後姿が、岩陰の向こうにフライを投げ、間もなく魚を釣り上げた。
が、釣り上がった魚は、今まで見たゴギとは様子が違った。
釣り糸にぶら下がる魚は、逆光でより際立つ輪郭が途轍もない存在感を醸し出している。
デカい!と、一気に緊張感が高まる。

目の前に尺ゴギ

マニアAは、メジャーを取り出して計測を始めた。
計測値は31cm。
尺ゴギである。
しかし、計測するマニアAの手元がどうもインチキ臭い。マニアAは、計測値を大きくしようと誤魔化す悪い癖があることを俺は知っている。
マニアAからメジャーを取り上げ、俺が正しく計測する。
それでも30.5cm。紛れなく尺ゴギである。
我々が憧れ続けた尺ゴギが、今、目の前に居る。
もう、興奮は治まらない。俺が釣った訳ではないが、我が事のように嬉しい。
尺ゴギを釣る瞬間が見られたこと。
尺ゴギを生で見たこと。
この支流にも尺ゴギが生息していることを確認できたこと。
滅多とない尺ゴギを釣る瞬間を動画に収めることができたこと。
全てが嬉しく、満足感に溢れる。
今日、状況の悪い中、こんな出来事が起こるとは考えもしなかった。

見栄

この日は十分に満足したので、早々に帰路につく。
帰りの車内も、釣れた尺ゴギの余韻を二人で楽しんでいた。
先にも触れたが、俺はゴギを狙って8年目である。8年越しでやっと尺ゴギを目にすることが出来た。まだ釣ってはいないが。
そうするとマニアAは、もっと長い年月を要しているのではと、マニアAに聞いてみた。
すると、ゴギ釣りの期間は俺と同じだと言う。
どういう事だろうか?
俺がゴギ釣りを始めたのは、8年前、マニアAに連れて行ってもらったことから始まっており、その時点で、マニアAはポイントも熟知しており、ゴギの攻略について指南してくれていた。
しかし、ゴギ釣りは俺と同時に始めたという。
そして、矢継ぎ早に、今日の尺ゴギは、今シーズン初の尺ゴギだったとも言う。
俺はマニアAのゴギ釣行の98%に同行しているが、今まで尺ゴギは釣っていない。そもそも釣ったら俺に自慢してくるはずだ。そして何よりも、今日、尋常ではないほどに喜んでいて、写真も撮りまくっていた。
間違いなく、10年以上かけて、今日、彼の人生において初めて釣っている。
どれだけ見栄を張りたいのだろう。
31cmではなく、30.5cmだ。

記念動画



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