この日もマニアAといつもの源流へ向かい、釣りを始めた。
釣り上がるが、気温が上がらないせいか釣れる気配がないので、早めの昼食をとり気温の上昇を待つ。

すると、思惑どおりに釣果が上がり始める。

マニアAも釣り上げ、ドヤ顔で俺の方に振り返る。

そして、いつもの大物が潜むポイントまで釣り上がってきた。

ここは、ある程度の広さがあるため、むやみやたらに見当違いの所にフライを投げていると、折角の獲物が逃げてしまう可能性がある。

なので、魚を目で発見し、そこをピンポイントで狙ってフライを投げ、一発で仕留める。

このことを、サイト・フィッシングと呼ぶらしい。マニアAは「ハンティング」と称する。

早速ポイントに入り、水面を凝視する。

マニアAの指導のおかげで、俺にも魚が見えるようになってきたのだが、残念なことに、随分と手前の方に一匹泳いでいる。

手前の魚がいけない訳ではないが、大きい奴は奥にいる可能性が大きい(気がする)。

だからと言って、手前の魚を無視して奥の魚を狙うと、手前の魚がビックリして奥に逃げて、奥の魚たちも警戒心を高め、結局ポイント全体をダメにしかねない。

なので、マニアAとの約束として「手前からルール」が存在している。

ゆっくりと忍び寄り、手前の魚から釣り上げる。

そして、次にマニアAがポイントに入り、俺より大きいゴギをヒットさせ、また求めてもいないドヤ顔で振り返る。

マニアAが釣り上げた後、俺がもう一度ポイントをのぞき込んでいると、奥の方にもう一匹のゴギを発見した。

しかもデカい！

緊張しながらフライを投げると、一発で水面のフライに豪快に食いついてきた。

よぉっしゃぁっ！と言わんばかりに、間髪入れず合わせたが、残念ながら針にフックしていなかった。

くっそぉ～～。と悔しがるが、先ほどまで何度も見せられたマニアAのドヤ顔が、より悔しさを助長させているのだろう。

しかし、ヤツはまだそこに居る。

もう一度狙って投げると、再びフライにアタックしてきた。

今度は落ち着いて、一息おいて合わせを入れる。

しかし、再びフックしていない。

おかしい。何故だ？

今までフライフィッシングにおいて、これほど合わせをミスる事などほぼ経験にない。

きっと偶々だろうと信じ込みたいが、機会をものにできないのであれば、結果は伴わない。

俺は考え込んだ。気持ちも落ち込みつつ、深く考え込んだ。

とりあえず、ポイントを休ませるために、その場を一旦離れて一息入れることにした。

使っているフライは、エルクヘアカディス。

俺のメインであり、98%これを使っており、このフライでの経験は積んでいる。いつもこのフライでゴギを釣ってきた。

そして、今回もそのいつもと同じであり、今日もいつもどおりに釣果をあげている。

なのに何故だ。

その時、ふと気付いた。

フックしなかった理由についてではなく、深く「反省」しているという自分自身に。

俺は、これが「反省」か。と思った。

これが「反省」であれば、俺は仕事においても、人生においてもほぼ「反省」はしてこなかった。終わったことを振り返ることは好まず、前を向いて生きるというスタンスであり、どんな時も「俺は悪くない」と考える質の悪い思考の持ち主だ。

そんな俺が深く「反省」しているのだ。

そしてそんな俺の内心を知ってか知らずか、マニアAが「結果を残せんヤツはダメやなぁ。」と傷口に塩を塗り込んできた。

「反省」の心情は、人を弱くさせる。

しかし、そんなことにはお構いなく、マニアAは、会話の度に言葉尻に「結果が全てや。」など発言し、波状攻撃を仕掛けてくる。

傷口に塩を塗り込むレベルではなく、傷口をヤスリで擦ってくる。

この人の行動パターンを観察していると、立場の弱い人間に強く当たることを好む。おそらくドヤ顔も、魚の大きさや数において優位に立った瞬間を誇示しているのだろう。最低な人間である。

その後、再度チャレンジしたが再びフックせず、魚は姿を消してしまった。

マニアAに繰り返し攻撃を受けたとおり、俺は結果を出せなかった。

ポイントを後にし、車まで戻る途中、車で帰る車内、マニアAは俺への攻撃を楽しみ続けていた。

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