名残雪
この日は、マニアAとマニアB師匠と一緒にいつもの渓流へ向かった。もう4月。春を迎えたとは言え前日からの冷え込みで、道中では思いがけない積雪に出会った。標高が上がるにつれ積雪量は多くなり、それに比例して我々のテンションも童心に帰ったかのように高まってくる。
思わず車を停め、季節外れの名残雪をカメラに収める。ふと冷静になってマニア達を見てみると、色違いとは言えお揃いのPatagoniaのウェアを着たおっさん二人が、枝に積もった雪に必死になってカメラを近づけSNS映えする写真を撮っている。
その姿には、滑稽さと共に愛おしささえ感じてしまう。
活性の低い渓流
準備を整え、渓流へ降りて行く。そして、渓流を遡上しながら、代わる代わるポイントを攻めて行くが、反応がない。春になって以降、急に気温も水温も低くなったせいで、魚の活性も落ちているのかもしれない。とりあえず、早めの昼食をとりながら、気温が上がるのを待つことにした。
待ちに待った釣果
昼食を終え、再びロッドを振り始める。早めの昼食作戦が功を奏し、まず一本目は、俺のフライに喰い付いてきてくれた。俺にとっては今シーズン初の釣果なので、嬉しい一本だ。
しかし、これを境にマニアAの元気がなくなり始める。
以前から触れているが、マニアAにとってフライ・フィッシングは人生の主軸であり、彼のライフスタイルの代名詞と言ってもよい。もちろんマニアA自身にとっても長年の努力の末築き上げてきた自らの誇りであり、自信でもある。故に、自分に釣果がなく、最近始めた我々に、しかもフライ・フィッシングに対しマニアAほどの思い入れも無い我々に釣果があることによって、マニアA自らの土台が揺らぎ始めてしまうのだ。
敢えて説明する必要があると思うが、マニアAは、メンタルがすこぶる弱い。
マニアAのメンタル崩壊
そしてマニアAにとっての悲劇は続く。それから一時間もしないうちに、俺が二本目を釣ってしまった。サイズこそ大きくはないが、見た目の立派なゴギだった。俺は純粋に嬉しく、失意のマニアAを心にも留めず、はしゃいでしまっていたはずだ。
そして結局、この日マニアAに釣果は無かった。
マニアAは、
「俺、もうフライ・フィッシングやめようかな・・・。」
「俺は何も取り柄がない男なんよ・・・。」
などと、ブツクサ言い始めた。
マニアAに釣果のない時はいつもそうであり、もう恒例行事のようなものでもあるが。
マニアAの生きる道
そんなマニアAであるが、彼にはフライ・フィッシングだけでなく、もう一つの特技がある事を俺は知っている。それは容易に真似できるものでは無く、俺も何度かチャレンジするがどうも身に付かない。これはマニアB師匠も俺と同じ感想であり、二人ともこの件に関してはマニアA高く評価しているのだが、本人がその価値に気付いていない。
その特技は「ハンズ・フリー・ション」だ。
我々は野山で時間を共有することが多いため、どうしてもお互いの用を足す姿を目撃することとなる。マニアAが用を足す後姿を見ていると、必ず両手がフリーになっている。どういう仕組みでそうできるのか、説明を聞いてチャレンジしてみるが、しっくりこない。
そう、あなたには「ハンズ・フリー・ション」がある。それは、多くの人が辿り着けない境地に達している域であり、あなたのアイデンティティである。たとえフライ・フィッシングで釣果がなくとも、胸を張って生きていくべきだ。
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