冒険の書を開く
前回の第一弾では、見島八十八か所を巡礼することの難しさを知り、その難しさ故の面白さにも気付かされた。あれから、早いもので二年が経過した。もちろん、結願を諦めたわけではない。必ず、踏破する。
第一弾では22番まで巡礼したので、今回は23番から開始し、いくつ巡礼できるかは分からないが、ここに冒険の書を開く。
一日目(2019 May 2)
新しい仲間
朝、8:30に萩商港に集合し、新しく造船され4月に「おにようず」からバトンタッチし就航したばかりの「ゆりや」に乗り込んだ。前回メンバーのゴッツは、今回、急遽仕事の都合で参加できなくなったが、イッコーさんは参加している。
それに加え、今回は、多くの仲間がパーティーに加わった。
TNG が なかまになった。
はかせ が なかまになった。
しょしんしゃ が なかまになった。
たいこやろう が なかまになった。
はかせ が なかまになった。
しょしんしゃ が なかまになった。
たいこやろう が なかまになった。
この日に向け、それぞれワクワクしながらアウトドアグッズを買いそろえたりしたのだが、もう二度と使うことが無くなり、無駄にならなければ良いのだが。
ここで、一応、全員のステータスを確認しておこう。
sue
ゆうしゃせいべつ:おとこ
レベル: 4
ちから: 60
たいりょく: 60
うんのよさ: 10
かしこさ:750
さいだいHP: 70
さいだいMP: 0
いっこー
しゅふせいべつ:ふめい
レベル: 3
ちから: 5
たいりょく: 50
うんのよさ: 5
かしこさ: 20
さいだいHP: 50
さいだいMP: 0
TNG
ひつじかいせいべつ:おとこ
レベル: 1
ちから: 5
たいりょく: 10
うんのよさ: 5
かしこさ: 20
さいだいHP: 30
さいだいMP: 5
はかせ
けんじゃせいべつ:おとこ
レベル: 1
ちから: 5
たいりょく: 10
うんのよさ: 0
かしこさ: 0
さいだいHP: 30
さいだいMP: 0
しょしんしゃ
あそびにんせいべつ:おとこ
レベル: 1
ちから: 10
たいりょく: 20
うんのよさ: 10
かしこさ: 0
さいだいHP: 40
さいだいMP: 0
たいこやろう
スライムせいべつ:おとこ
レベル: 1
ちから: 10
たいりょく: 10
うんのよさ:100
かしこさ: 0
さいだいHP: 30
さいだいMP: 0
謎多き23番
見島に降り立つと、早速前回の続きとなる23番へ向かい、巡礼を開始した。巡礼において、我々が唯一拠り所としているのは、見島八十八か所を案内しているパンフレットである。
このパンフレットによると、23番は、六地蔵尊と呼ばれる場所に在る。六地蔵尊はコンクリートの小さな建物で、中に地蔵が何体も並んでおり、その場所は我々が降り立った本村港のすぐ近くだ。
しかし、前回の第一弾では、この23番がパンフレットに表示されている位置とは違う場所に在るという村人の情報があった。それ故に、前回、22番まで巡礼して本村港から帰ったので、23番はすぐ近くだったにもかかわらず、その上時間があったにもかかわらず、もう面倒くさくて23番には近づこうとしなかったのだ。
六地蔵尊に到着すると、皆で23番を探した。見島八十八か所の地蔵は、その土台に番号が刻まれている。目の前に並ぶ地蔵の中から、土台に23番と記された地蔵を探すが、見当たらない。
ところで、六地蔵尊には「六」という数字が使われているが、その建物の中には、六体どころではない数の地蔵が並んでいる。パンフレットによると、そのうち、八十八か所の対象となる地蔵が五体あるはずだ。六の意味が分からないが、それは今回の問題には直接影響は無いと思われる。
改めて、六地蔵尊の周囲にも捜索範囲を広げて探してみるが、それらしいものは見つからない。しかし、六地蔵尊の脇にある立て札にも、23番を含めた五つが案内されている。
無いものをパンフレットに記載しないだろうし、立て札で案内しないだろうが、探しても”無い”という現実がある。
だが、見島八十八か所では、”無い”と思ったものが”在る”ことを前回の第一弾で学習している。
イッコーさんの推理
ではどこに在るのか?この付近を捜せば在るかもしれない。23番は、何らかの経緯で村人の言うとおり全く別の場所に在るのかもしれない。何れにしても、手元の情報では現状の打破が困難である。村人からの情報収集が必要だ。
そんな風に思っていた時である。イッコーさんが、とある推理を口にした。それは、次のようなものだ。
- 六地蔵尊に案内される五体のうち、四体はここで確認できる。
- その四体には番号が刻まれ(12、21、71、81)、ここに在るその他複数の地蔵と姿形が異なる。
- しかし、その他複数の中に、唯一、その四体と姿形が同じものがある。
- この一体こそが23番なのではないか?
なるほど。そう言われて観ると、番号が刻まれた土台こそは無いが、姿形も装飾も同じで、その一体を含めた五体と、その他の地蔵は姿形も装飾も全く違う。
ただ、今まで確認してきた地蔵には全て土台に番号が刻まれており、その番号を確認できない以上、100%の正解ではない。
しかし、パンフレットと現地の立て札で23番が六地蔵尊に案内されている事、そしてイッコーさんの推理、これらを総合して考えれば、十分に説得力のある説明である。このことに気付いたイッコーさんの能力に驚きを感じた。
驚かされたのはイッコーさんの推理力だけではない。自力での解決を諦めて人の情報に頼ろうとし、考えることを放棄していた自分と、自己解決をしようと目の前に見えるものから情報を収集し、真剣に考えていたイッコーさんとの姿勢の違いだ。ここに一番の驚きを感じ、反省させられた。
事前に村人から、23番は別の場所に在るという情報もあったため、若干の煮え切らなさは残るものの、23番を”発見”とした。
第二弾の開始早々、23番は知力を試される巡礼となったが、この件で、イッコーさんのレベルが上がった。
いっこーは レベル4に あがった!
かしこさが 10ポイント あがった!
かしこさが 10ポイント あがった!
エラ山ってどこ?
次は、24番を目指す。平面的でザックリとしたマップで示される位置へと向かった。24番は、パンフレットによると「エラ山 原野氏煙草畑の上」と案内されているが、マップで示される場所付近に到着しても、目の前の山がエラ山である確信は無いし、煙草畑も見当たらない。そもそもそこに煙草畑があっても、野原氏のものかどうか等分かるはずもない。
何はともあれ、おそらく目の前の山がエラ山なのだろうから、この山を隈なく探せば発見できるかもしれないが、山裾はどこも竹藪で行く手を閉ざされている。
この山も、藪漕ぎしながらの探索となりそうだが、エラ山と思われる目の前のエリアは相当に広い。この面積から、藪漕ぎしながら一点のどこに在るかも分からない地蔵を発見することは、途轍もない作業となる。
ある程度、ポイントを絞らなければならない。
ちょうど、近くでおばさんが田植えの作業をしていたので、聞いてみた。
俺「見島八十八か所を巡礼してますけど、24番の場所知ってます?」
おばさん「さぁ、ちょっと・・。」
俺「エラ山って、この山ですか?」
おばさん「さぁ・・。」
俺「原野さんの煙草畑って、この辺りにありますか?」
おばさん「さぁ、原野さんのキュウリのハウスはあっちにあるけど・・。」
俺「そうですか。ありがとうございました。」
反応の薄いおばさんだったが、少なくとも、原野さんのハウスがある場所は分かった。煙草畑もその付近にある又はあったのではないかと想像できる。
何とか煙草畑の位置を特定して、そこから藪漕ぎしながらエラ山へ上がって行くしかない。
煙草畑の捜索
原野さんのキュウリのハウスは、エラ山と思われる山の麓に在る。そもそも、煙草の栽培時期がいつなのかも分からないが、その周囲に煙草畑は見当たらない。ハウスがある所で元々煙草を作っていたのか、或いはその付近が煙草畑だったのか、何も分からないが、近くの山の麓に耕作放棄地となっている場所があったので、ここが煙草畑だったかもしれないと仮定してみる。
この付近で、山への登山口が無いか探してみたが、やはり一面密集した竹藪で、簡単に足を踏み入れることが出来そうな所は無い。
ここを煙草畑と決め付けて藪漕ぎを開始するという行動を起こすことも大切かもしれないが、徒労になってもいけないので、一応、他に登山口が無いか広域に確認してみることとした。
島民の暖かさ
一旦、道に戻ると、そこに先ほど話しかけた反応の薄いおばさんが待っていた。おばさんは、旦那が詳しいから呼んだので、少し待ってほしいと言う。反応が薄かったので、我々の問いかけに対して迷惑にしか思っていないのかと感じていたが、全くそんなことは無かった。何とか力になれないかと行動してくれていたのだ。しばらく待っていると、旦那さんが現れた。
旦那さんは、過去に子供と24番の巡礼に行ったことがあるが、もう随分昔の事で、明確にポイントは覚えていないらしい。だが、その登り口は、我々が煙草畑と仮定した場所だったと言う。
しかし旦那さんは、その登り口が既に藪と化していることも認識していた。そこから藪漕ぎをしながら進むことは困難を極めるだろうから、同じ藪漕ぎでも、なるべく距離が短くなる登り口を模索してくれた。
その場で、何人もの知り合いに電話をし「あそこの道は今どうなっているか?入れるか?24番に近いか?」等と聞いてくれている。
そしてそのうちの一人のおじいちゃんが現場に現れた。そして、24番はどこに在るのか?どこから入れば良いか?といった事を旦那さんと議論し始めた。
衝撃の事実
旦那さんの電話で現地に現れたおじいちゃんも、知り合いに電話をして確認してくれている。そんな連絡先の一つでのことだ。察するに、見島に居れば現地を案内できるが、あいにく、孫の顔を見に東京に来ているという内容のようだ。
そして、その相手は、どうやら第一弾で世話になった、見島八十八ヶ所マスターの中家夫妻のようだ。
困った時の最後の砦として心の拠り所としていた中家夫妻は、どうやら見島には居ないという、衝撃の事実だった。
23番が煮え切る?
旦那さんが来てくれた時、最初に、一冊のアルバムを見せてくれていた。このアルバムは、第一弾の時に見島支所で同じ物を見たことがある。改めて内容を見ると、約20年前、ある女性が教員生活最後の赴任地として見島中学校に校長として赴任し、その際、見島八十八か所を巡礼した際の写真に説明書きを添えた冒険の書だ。言わば見島クエストの攻略本である。
俺が旦那さん達と話している間に、新しくパーティーに加わった仲間達が、この攻略本に目を通してくれた。
それによると、この攻略本には、24番について今悩んでいる事を解決できる記載はない。しかし、イッコーさんが推理した23番について、興味深い事が書いてあった。それは、23番が晩台山に在り、番号は土に埋まって確認できないということだ。そして、攻略本には、41番についての記載は一切ない。
しかし、パンフレットによると、晩台山に在るのは41番である。
要は、パンフレット上に記載のある23番と41番が、この攻略本では入れ替わっている可能性があるということだ。
であれば、もし、イッコーさんの推理した23番を41番と認識しているのなら、その両方とも番号は確認できていないことになる。
一方で、攻略本には、八十八か所全てを確認したと記載があるが、番号のない地蔵があったとは書いていない。
パンフレットと攻略本のどちらが正しいのかは定かではないが、今、我々はパンフレットを拠り所として巡礼している。
先ほど、若干煮え切らない思いで確認した23番だが、今後、41番を確認した時に、何か見えてくるかもしれないという光明が差した。
なお、この攻略本全ページをスマホのカメラで撮影させてもらった事は言うまでもない。
こうりゃくぼんを てにいれた。
24番へのルート確定
旦那さんの情報は、- 24番は、エラ山の尾根に在ったと思う
- 松林の中にあった気がする
という、確実性の無いものばかりだったが、電話をかけまくった情報を要約し、エラ山の東側にあるミカン畑の道を進むと近いという解を導き出してくれた。
そして、ミカン畑の道の入り口まで、我々を軽トラで送ってくれた。大変有り難いことだ。
我々は、旦那さんにお礼を言って別れ、とりあえず昼食にした。
藪漕ぎ開始
ミカン畑の道は、入り口から既に藪と化している。今回は、参加できなかったゴッツから、ナタとナタガマを借りてきているが、俺以外は、武器の使い方もまだ知らず、その状態で使わせるのは危険であるため、俺がナタを装備し、先頭に立ち、その使い方を背中で教える。
ミカン畑への道は、いつまで使われていたのか分からないが、周囲の藪と比較すると多少は歩き易い。
しかし、どうしても密度の高い藪にも侵入せざるを得ない。24番の場所は、皆目見当もつかないが、きっと尾根に在るのだろう。国土地理院の地図上で現在位置を確認しながら、想定されるエリアを彷徨う。
藪漕ぎは、酷い所では、1分で10mも進めない。左右も2~3m程度しか視界を確保できない。こんな状況で地蔵を発見するためには、この山の尾根の広大な面積を伐開するに近い作業となり、途方もない労力と時間が必要である。
先頭を進みながら、”こんなの無理なんじゃないか”と心に思うが、口に出すわけにもいかない。イッコーさん以外の仲間は今回が初参加で、藪漕ぎなんてしたことないだろうし、何よりまだ、二つ目の地蔵探しである。そんな発言を聞くと意気消沈してしまう。
そんな気持ちで伐開作業を続けていると流石に疲れて来た。少しは俺の背中を見て学んだだろうからと、藪漕ぎを交替してもらう。しかし、誰も俺の背中など見ていなかったので、武器の使い方を教える。
そして藪の中を彷徨うこと2時間。エラ山の中腹を横断して、山の反対側の畑に出た。まだ地蔵の手掛かりさえ発見できていないが、藪を抜けただけで途轍もない解放感と安堵を覚える。
とりあえず、広い所に腰かけて休憩することにした。
休憩と方針検討
初心者船山がJETBOILで湯を沸かしてくれたので、Helinoxに腰かけて、コーヒーを飲んだ。目前には、エラ山が見えている。
あの山のどこに24番は座っているのだろうか?
今回初参加の仲間は、手掛かりも無く藪の中の地蔵を探すとこととは、一体どういう事なのか、何をどうすれば見つけられるのか、皆目見当もつかないだろう。だが、それは、体験済みのイッコーさんと俺も同じなのだ。いや、その難しさは、イッコーさんと俺の方がより分かっているだろう。
エラ山を眺めていても、何の解決策も浮かんでこない。
この時点で15時30分。今からエラ山に入っても、次に山から出られる時間が何時になるかは分からない。一晩寝れば解決するかもしれない。
この日は、もう、野営地の見島ダムへ向かう事にしたが、誰もが疲れていて、その判断を期待していた。
キャンプ
2泊3日ともなると、テントや寝袋、食料等々、荷物も多い。それにもかかわらず、みんな、酒だけではなく、つまみもどんどんザックから出て来る。TNGに至っては、マシュマロを出してきた。火で炙って食べると美味しいと言う。確かにそんなのをテレビで見たこともある。
しかし、見島八十八か所は巡礼であり、遠足ではない。浮ついた気持ちで来やがってと思ったが、差し出されたマシュマロを喰ってみると、美味いことこの上ない。この日、TNGが唯一活躍した瞬間だった。
その後、星空を肴に酒を飲み、明日に備えて眠りについた。
二日目(2019 May 3)
再び24番へ
朝起きて、朝飯を喰って、荷物をまとめて、再び24番の探索へ向かった。残念ながら、博士は、ここで本土へ帰る。地蔵も1/88しか見つけることはできなかったし、何の活躍の場も無かった。
ザックリ言うと、見島に来て、藪の中を歩いて、酒を飲んだだけだが、楽しんでくれただろう。第三弾も参加し、活躍してくれる事を期待する。
さて、24番探索に向け、一晩寝ても何も解決していないが、気持ちは新たにできた。エラ山を前にして、尾根を眺め、松林の位置を確認し、どのように捜索するか作戦を練る。
作戦としては、折角人数が多く、範囲は広大であることから、3人と2人の2チームに分かれて効率的な捜索をする。昨日出てきたエラ山の西側の畑からエラ山の中腹に入り、そこから左右に分かれて、それぞれ尾根沿いを移動する。
早速、エラ山へ向かい、畑のを抜け、再び藪に入る。尾根までは、前日に藪漕ぎしたルートを歩くので、歩き易い。
作戦説明
尾根に到着した。TNGと初心者船山は尾根沿いに麓の方へ、イッコーさんと太鼓野郎と俺は尾根沿いに山頂の方へ進む。
尾根と言っても、のっぺりとしており、尾根と認識できる幅は30m以上ありそうで、進みながら探索すべき左右の幅は広い。これが一番の問題点である。これを皆に十分に理解してもらわなければ、見落としてしまう可能性が高くなる。
今、我々は、困難に直面している。今日の午前中で見つかればラッキーである。今日、一日を24番の探索で終わらせてしまうかもしれない。明日までかかっても見つからないという可能性も否定できない。そうなると、第二弾では、23番しか見つけることが出来なかったとも成り得る。
それを回避するためにも、今回の作戦遂行には、細心の注意が必要である。麓方向へ進むチームは、頭脳派のTNGをリーダーに任命した。このリーダーに尾根の範囲は広い事を理解させることが、今日の探索の肝となる。
山についての知識など一切無いTNGに、尾根について説明する。
尾根として認識できる幅について、目の前の景色を指で示しながら、その広さを教える。藪で尾根を見渡せない場所の方が多いだろう。それらを全て、隈なく探さなければいけない。その尾根の中にも小さな起伏があり、単に目視で確認して諦めるだけではなく、足を運んで起伏の向こう側も確認しなければいけない。そう説明した。
ちょうど目の前に、小さな起伏があったので、例えばという事で、その起伏の向こう側へ足を運んで確認する事を実演する。
起伏の裏へ足を運ぶと、そのまた向こうの小さな起伏があり、その向こうで木の陰から人為的に積んだような石の端っこと認識できる物がチラッと見えた。
奇跡
まさかと思い、近付いて行く。徐々に、木の陰からチラッと見えていた物の面積が増えていく。面積が増えるにつれて、興奮の度合いが増してくる。歩いていたが、小走りに変わる。
近付くと、その石は人為的に積んだもので間違いない。地蔵の祠である可能性が高いが、今、自分が見ているものはその裏側だろう。
急いで傍へ行き、表へ回る。
あった!見つけた!地蔵だ!24番だ!
大声で皆を呼び、喜びの声を発する。興奮は最高潮に達する。
冗談のような経緯だが、発見できた。
この付近は、昨日も歩いているが見つけることは出来なかった。ところが、今日は、藪に入って、まだ10分も経過していない。
一晩寝たこと、TNGが山について説明が必要な人材であったこと、色々な事象が積み重なって起きた奇跡だった。
興奮も冷めぬままに、昨日の旦那さんへ電話し、発見の報告と協力への感謝を伝えた。
Mishima 88 Questは、次の瞬間の予測がつかない。数々の困難が待ち受けていて、それらを乗り越えながら先へ進む。その過程の出来事は、あまりにも刺激的で、だから止められない。
権現岩の25番
笑顔で、意気揚々と25番へ向かう。昨日の旦那さんから、25番は海岸沿いに歩いて行けば在ると聞いている。
エラ山から海岸線へ向け南下して行く。TNGも初心者船山も、率先してパンフレットを確認し、目的の地蔵を発見しようとする。24番の発見を経験し、やっと見島八十八か所の巡礼とは何かを理解出来たのだろう。
海岸線に出ると、蒼天の下の藍色の大海原は深く穏やかで、視界に収まりきらない水平線が広がり、丘には冬の荒波に削られた雄々しい岩肌が迫り、そこには明緑色の強い潮風に耐えうる背の低い植物がへばり付く。
当に離島らしい景色である。
離島に来たのならば、こういった爽快な景色を満喫したいものであるが、このような自然景観を目にするのは、25番まで来て初めての事である。今まで集落か藪の中ばかりを彷徨っていた。
25番を確認すると、そのままその場を後にすることがあまりにももったいなく、しばらく腰を下ろし、25番の地蔵が眺める景色と同じ景色を楽しんだ。
運が悪ければ、まだ24番を探していただろうと思いながら。
夕方までに30番へ
25番の後は、東海岸を北上しながら29番まで巡礼し、そこから南下して本村の集落にある讃岐坊の30番を巡礼する。その次の31番は、見島内陸部の山へ登らなければいけないので、どう頑張っても今日は30番までだろう。そうすれば、ちょうど夕方に30番に到達し、そこは折角本村の集落なので、商店で冷たいビールを買って飲む目論見だ。
そのためにも、今からの5か所をスムーズに巡礼しなければならないが、そう簡単にはいかないだろうことも、予測に難しくない。
26番は藪と化した道を進んだが、初心者船山が率先して先頭でナタを振り、難なく発見できた。
27番は、一切の藪漕ぎは必要なく、緑陰のトンネルから時々見えた海岸線の景色が心を和ませてくれた。
この時点で、13時。どこか広い日陰を見つけ、腰を下ろし昼食をとることにした。
問題の28番
28番へ向かう途中、ちょうどよい場所があったので、昼食休憩にする。頭脳派のTNGが収集した情報によると、28番は入り口が分かりにくく困難な場所であると言う。
この時点で14時。もし、28番で手間取ってしまうと、30番へ行く頃には商店が閉まってしまうかもしれない。
24番のような困難を覚悟しつつも、何とか簡単に見つかってほしいものであると願うが、頼るべきものは、”運”しかない。
ところで、ここまで藪漕ぎはある程度頑張ってくれたが、未だ見島八十八か所に興味を示さず、地蔵の発見にも貢献していない男がいる。
太鼓野郎だ。
太鼓野郎は、太鼓の達人ばかりしていて、その腕前は超絶だが、太鼓の達人以外は何の取り柄もなし、特に何もせず淡々と生きている。
そんな太鼓野郎は、人生において”運”を使う場面などなく、大量に”運”を溜め込んでいるに違いないとのことから、28番は太鼓野郎の運に任せることにした。
昼食休憩を終え、出発したが、太鼓野郎は28番を任せられたことに喜びを感じたのかもしれない。意気揚々と先頭を進むが、その歩く速度は速く、我々との間隔がどんどん開いて行き、目的地に近づくと脇の小道へと姿を消した。
そして次の瞬間「在りましたよー。」と声が聞こえた。
一同、驚愕である。アッと言う間に見つけてしまった。
運を使えと言われて、運を使う男。ただ者ではない。
たいこやろうは レベル2に あがった!
ちからが 2ポイント あがった!
たいりょくが 3ポイント あがった!
うんのよさが 10ポイント さがった。
ちからが 2ポイント あがった!
たいりょくが 3ポイント あがった!
うんのよさが 10ポイント さがった。
予想外の困難
太鼓野郎の運のおかげで、冷たいビールが現実味を帯び始めた。後は、29番さえ2時間以内に発見できれば良い。
アバウトなマップが示す29番の位置で地蔵を探すが、それらしい場所が無い。マップの位置とは多少異なるが、その先の小道へ入って行く。
ここでも、太鼓野郎が我々を置いてどんどん先に進んでいく。28番の発見で、やっとこのクエストの楽しさを理解したのだろう。
我々も太鼓野郎に続き、その歩き易い小道をどんどん進んでいくと、ただの藪に行き当たってしまった。
当然、今までも藪の中にあった地蔵も少なくないのだが、どうも様子がおかしい。過去から人が立ち入ったことのない原生林と言うか何というか、何かが違う気がするのだ。
手前に丁字路があったので、そこまで戻り、丁字路を曲がる。
進んでいくと、再び藪となってしまう。しかし、こっちの藪は、植生の密度は濃いものの、過去にここが道であっただろうと思わせる地形である。
もう気持ちは冷たいビールであり、29番がこれほど困難であるという心の準備は出来ていなかったが、残念ながら状況は良くない。ここも相当な時間を要する可能性があると覚悟を決め、ただひたすら藪漕ぎをする。
しかし、進むにつれて不安になってきた。藪の手前の小道が歩き易かったので、どんどんと進んできたが、もしかすると、その両脇にひっそりと座る地蔵を見過ごしてしまったのではないかと。
その不安を解消すべく、折角人数が多いので、イッコーさんとTNGに戻って確認してもらい、残りの我々は引き続き藪漕ぎを続けることにした。
イッコーさんとTNGは引き返し、我々も再び藪漕ぎを再開した。
その直後、イッコーさんとTNGの声が聞こえてきた。
何と言っているかは聞き取れないが、この局面から考えれば、地蔵の発見であると誰もが思う。しかし、まだ二人が引き返して間もないので、地蔵の発見であることが俄かに信じられない。
初心者船山と太鼓野郎と、半信半疑で確信もないまま、逸る気持ちで急いで声のした方へ向かう。
地蔵の呼ぶ声
すると、丁字路に戻るまだ手前の道の脇に地蔵を発見していた。しかし不思議である。道の脇と言っても、その場所は道から7~8m離れたなだらかな斜面で、道からは地形の起伏や木に隠れていて地蔵は全く見えない。そんなものをこんなに早い段階で発見できる訳がない。
TNGに、その地蔵をなぜ発見できたのかと聞くと、地蔵の方へ続く道らしきものが見えたので、一応確認してみた結果、発見したのだと言う。
しかし、そのTNGが言う地蔵へ続く道など見えない。ただの林である。言われればそうかもしれないと思わなくもないが、普通は道とは認識しないだろう。
対面した29番に人の訪れた形跡はあったが、滅多に人は来ないのだろう。寂しがり屋の29番は、何故にかは分からないがTNGと共鳴し、TNGを呼んだのかもしれない。
何れにしても、TNGの大手柄だった。
TNGは レベル2に あがった!
ちからが 2ポイント あがった!
たいりょくが 3ポイント あがった!
TNGは じぞうきょうめいを おぼえた!
ちからが 2ポイント あがった!
たいりょくが 3ポイント あがった!
TNGは じぞうきょうめいを おぼえた!
讃岐坊の30番
ここまで、あまりにも都合のよい予定を上回るペースで巡礼できた。運が良かったと言えばそれまでだが、これこそがチームの力だと思う。
一人では、考え方や行動が偏りがちだが、複数人であれば、それぞれ違った感性や視点、考え方、そして行動が融合し、幅広い可能性が生まれ、結果につながる。
今回のパーティの仲間が誰か一人欠けるだけで、成果にマイナスの違いが現れただろう。
讃岐坊の30番は、難なく巡礼を終え、その近くの引地商店へ向かった。
冷たいビール
今回の趣旨は巡礼であり、文明から離れた環境で、多少不便ではあるがザックの荷物だけで生活し、自分を見つめ直すことも大切だ。だが、幸いにして、今回の巡礼期間中は好天に恵まれ、朝から重い荷物を背負い、藪漕ぎや登山を熟しながら、この日は10km以上を徒歩で移動し汗を流した。冷たいビールが旨くない訳がない。
どうすべきかの問題ではない。どうしたいかだ。
迷わず引地商店に入り、文明のお世話になった。
商店の近くに座り込み、早速、冷たいビールを頂く。至極の時だ。誰も我々を責めはしないだろう。
キャンプ
この日も、見島ダムで野営する。前日同様、体を洗い、飯を喰い、酒を飲む。
この日は、初心者船山のおすすめで、リッツにクリームチーズを塗り、カリカリに焼いたベーコンを添え、ワインを飲みながら頂く。
クリームチーズに焼いたベーコンが合うとは思えなかったが、食べてみるととても美味い。引地商店様様である。文明って素晴らしい。
夜も更けたころ、酒好きのイッコーさんが自分の持ってきたウィスキーを、同じく酒好きなTNGに全てあげていた。
イッコーさんは優しい性格なので、人に施すことは不思議ではないが、酒好きなのに残さず全てを差し出す姿に多少の違和感を覚えた。後に分かったことだが、イッコーさんの苦悩は、この時すでに始まっていたようだった。
三日目(2019 May 4)
この日の予定
いよいよ最終日の朝を迎えた。この日、最初に向かう31番は、山の中にある。藪漕ぎしながらの登山であり、地蔵の発見には困難が想定される。
運よく発見できれば、32番と33番が本村の集落に在るので、そこまで巡礼して本村港から航路で帰る予定だ。
朝飯を喰って、荷物をまとめ、31番へ向けて出発する。
イッコーさんの違和感
文科系のイッコーさんだが、いつの間にかアドベンチャー好きになり、どんなに辛いイベントも、前向きに淡々と楽しんでいる。この日も、荷物をまとめて「しゃーねーから、行くか!」と言うと、イッコーさんは「本当に行くんすか?」等と、日頃は聞かない若干後ろ向きな発言をしつつ、かなり重そうな腰を上げた。
昨夜に続き、ここでもイッコーさんの違和感を感じた。
31番の攻略法
パンフレットによると、31番は、瀬高山(標高147m)の7合目付近、曽野氏の松林付近に在るらしい。どこの松林が曽野氏の松林かを知る由もないが、そして、瀬高山の7合目付近の7合目が正しいかどうかは定かではないが、この情報に従えば、標高100m付近の松林を目指すこととなる。
全くもって、範囲を絞ることのできない情報であり、登山道すら無いような状況であれば、途方に暮れなければならない。
すると、頭脳派のTNGが攻略本に目を通しており、二本目の道を入れば良いといった趣旨で記載があると言う。
とりあえずは、この記載に従うしかない。
瀬高山への登山口
上り坂のアスファルト道を歩き、峠に着いた。この右手が瀬高山であると考えられる。ここから、北側の宇津方面へ下りながら、右手の二本目の入り口に入れば良い。一本目の入り口を通り過ぎ、二本目を探す。
パンフレットのマップに表示されるルートの位置に、道は無い。時の経過とともに藪と化しているのかもしれない。
パンフレットの表示はアバウトなので、その先に進み二本目の入り口を探す。すると、二か所に入り口はあったが、どうも高瀬山へ登って行くような道ではなさそうだ。
仕方なく、パンフレットに表示される位置に戻り、藪漕ぎを開始する。
手あたり次第の捜索
そこは、過去、段々畑だったようで、何段かの藪と化した平面を登って行くと、道らしき場所に出た。その道を左手に進んでいくと、密度の高い藪に行きついたが、どうもこれも高瀬山へ登って行く方向とは違いそうである。
その道を逆方向へ進んでみる。すると、先ほど通り過ぎた、一本目の入り口に行き当たった。
その途中に、分かれ道があったので、そこまで戻り、その道を進んでみる。
この道は、高瀬山の中腹を同じ標高のまま、ぐるっと周るようなルートである。藪の隙間から垣間見る景色から考えると、高瀬山に隣接する山との間に向かっている。
その状況から、この道は、高瀬山とその隣の山の間の峠を越える道ではないかと想定される。そうであれば、峠に地蔵が鎮座している可能性もある。人間の行動特性として、地蔵は峠に設置しがちである。
藪の密度が濃くなってきたが、ここは進む価値がありそうだ。
イッコーさんが腹痛
とうとう、イッコーさんの違和感の理由が明らかになった。どうやら昨夜から腹痛が発症していたようである。
いっこーは どくに おかされている!
イッコーさんは、皆に先に行ってくれと言うが、そんな状況のイッコーさんを誰もいない藪の中に置いて行くわけにもいかない。TNGと太鼓野郎が付き添い、TNGが持ち合わせていた整腸剤をイッコーさんに渡し、しばらく休憩することにした。
鉈(なた)道
その間に、初心者船山と俺は、皆が歩き易いように、藪を伐開しながら先に進んだ。初心者船山は、生まれて初めて鉈を手にしたにもかかわらず、この三日間、積極的に藪漕ぎの先頭を担った。
その成果か、鉈の扱い方が分かってきたと言う。確かに、見ていても扱いが上手くなっている。
昔、武士は、命のやり取りをしなければならなかったので、剣の道を究めようとした。現代の剣道にはそのノウハウが根底にあるのだと思う。よくは知らないが。
我々も、藪漕ぎをしなければならないので、鉈の道を究めなければならない。
初心者船山は、鉈道に入門できる資格を得たのかもしれない。
しょしんしゃは レベル2に あがった!
ちからが 3ポイント あがった!
たいりょくが 3ポイント あがった!
ちからが 3ポイント あがった!
たいりょくが 3ポイント あがった!
峠に小屋
初心者船山と藪漕ぎをしていると、峠に着いた。すると、峠の右手に古びたトタンの小屋が見えた。我々の位置からは、その小屋の背面が見えるだけなので、これが31番の地蔵であると確信できないが、きっと、これが31番である。
その真偽を一刻も早く確認したいという欲求に駆られるが、その楽しみは、全員が揃ってから味わうべきだ。
とりあえず、小屋の手前のギリギリのところまで、通路を確保して、皆の所に一旦戻ることにした。
藪漕ぎの危険
小屋の手前まで最後の藪漕ぎを進めていると、急に初心者船山が声を上げたので、驚いて振り返ると、目の前にスズメバチの巣がある。我々の進む道のすぐ脇にあり、俺は既に通り過ぎた後だった。
今回は、ハチの影が見えないので既に巣を捨てた後かもしれないが、それは、たまたまであり、藪漕ぎ中に気付かずに刺激を与えてしまう可能性も十分に考えられる。
そうなってしまった場合の事を考えると恐ろしい。良い勉強になった。
峠の小屋を確認
皆の所に戻ると、間もなくイッコーさんも復活した。全員揃って、峠の小屋を確認しに行く。
小屋の直前の藪を伐開しながら近づいて行くと、小屋の中が見えて来る。地蔵が鎮座している。小屋に入り番号を確認する。やはりここが31番で間違いなかった。
人が訪れる機会は少ないだろうから、小屋の周りの竹や蔓を取り除く。
この地点は、瀬高山の7合目と表現するよりも、瀬高山とその隣の山の間の峠と表現した方が分かり良いだろう。合目という言葉は曖昧に使われるので、特定は困難だ。
帰路へ
この後は、本村へ戻り、32番と33番を巡礼して本村港から帰る予定にしていたが、この地点からは、宇津港の方が近い。イッコーさんの体調を考えると、宇津港へ向かった方が良いだろう。宇津港に到着すると、そこでしばらく時間を潰し、見島を後にした。
今回のクエストも、とても楽しかった。
中家夫妻の支援を受けることが出来ないという不安から始まったものの、31番まで、チーム力を発揮し、自力で探し当てることが出来た事は今回の成果だろう。
次回も、この楽しいクエストを続けるために、ここに冒険の書を記した。
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