猿渓瀑布!?
近年、萩市ではジオパークの取り組みが盛んである。ある日、何の気なしにその関係の広報誌を手に取った。
すると、そこには、阿武川沿いの風景等をテーマとした昔の日本画の展示会を紹介し、その中で松林桂月が描いた猿渓瀑布の絵に触れ、
長門峡の金剛渓(こんごうけい)にある猿渓瀑布(えんけいばくふ)は、幅25mもある山口県最大級の滝ですが、今では容易に行くことができません。と説明している。
何と興味をそそる説明文である。
地元ではよく知られる長門峡だが、そこに県内最大級の滝が存在するなど初耳である。しかも、容易に行くことが出来ないと言われると、気持ちが疼く。
リサーチ
早速、ネットで調べてみる。まず場所だが、蔵目喜川が阿武川に注ぐその上流が金郷渓で、そこに猿渓瀑布は位置するようである。
蔵目喜川の注ぎ口に行くためには、阿武川をボートで渡河しなければならない。昔は橋が掛けられていたが、大水で流れてしまったようである。渡河さえすれば、猿渓瀑布までは荒廃した遊歩道が残っているらしい。
なるほど。俺はカヤックがあるので、カヤックさえ持って行けばどうにかなりそうである。
しかし、普通、川を渡る手段を持ち合わせている人は多くはないだろうから、おのずと秘境となってしまっているのだろう。
陸路の可能性
川さえ渡れば猿渓瀑布へ行くことが出来ることが分かった。だが、川を渡ることが些か面倒である。どうにか陸路で行くルートは無いだろうか?国土地理院の地図で周囲の山の等高線を確認してみる。
すると、金剛渓の東側、阿東生雲中本郷から、長門峡林道を経由し、尾根伝いに金剛渓へ降りて行けそうだ。
ただ、現地では、例えば、最終的に金剛渓へ降りる所が急激な崖になっていると、たどり着くことは出来ないかもしれない。国土地理院の地図とは言え、そこまで詳細に表現はされていない。行ってみなければ分からない。
川さえ渡れば行けることが分かったルートと、たどり着けるかどうか分からない未知なるルート。もちろん、楽しそうなのは後者である。
陸路探索
初心者船山と現地へ向かう。林道の途中、分かれ道の地点で、林道は鎖で閉ざされていた。そこに車を停め、林道を歩き始める。
やがて林道は行き止まり、目の前に藪が立ちはだかる。もちろん、覚悟はしていたが、藪漕ぎが始まるかと思うと気が重い。しかし、当然ながら進まなければ辿り着けないので、藪漕ぎを始める。
思いの外急な斜面が多く、思いどおりに進むことは出来ないが、ほぼ計画どおりのルートをたどり、金剛渓へと続く尾根に着いた。
後は、この尾根を下って行けば金剛渓に着く。何も問題なければだが・・。
登山道のピンクリボン
尾根を下り始めて間もない時の事である。目の前の枝に、登山道の道しるべとしてよく見るピンク色のリボンが括り付けられていた。しかも古くはない。秘境猿渓瀑布への新たなる陸路の開拓者を自負して、意気揚々と、汗だくになりながら藪と闘い続けてきたが、どうやら、既にルートは開拓されていたようである。残念だ。
ピンクリボンをたどりながら、先ほどまでの藪とは比べ物にならないほど歩き易い尾根を進む。
断崖の尾根
尾根は歩き易いのだが、その左右は、所々が足の竦むほどの断崖となっており、高所恐怖症の俺にはやや難易度が高い。高所恐怖症でなければ、尾根に立ちふさがる岩や変化のある地形が、逆に面白いルートなのだろう。高所恐怖症ではない初心者船山は、楽しそうに進んでいる。
最後の傾斜
ハラハラドキドキしながら尾根を進んでいくと、蔵目喜川の流れる音が聞こえてきた。近づくにつれ、川の音は瀑声であることが確認できる。猿渓瀑布だ!もっと近づくと木々の隙間から蔵目喜川を垣間見ることができた。いよいよ近づいて来たと胸が躍るが、一つ気になる事がある。
もう蔵目喜川はすぐそこだが、蔵目喜川と我々の立つ尾根との標高差は小さくない。悪い予感がする。
もし、この尾根の先が断崖で、蔵目喜川へ降りることが出来なければ、地形図とにらめっこしながら、降りることが出来そうなポイントを探して彷徨い続けなければいけない。場合によってはこの尾根を戻り、違う尾根からの接近を試みる必要もあるかもしれない。
そんな心配をしながら、蔵目喜川の方へ近づいて行くと、最後の斜面は傾斜が急ではあるが、降りることが出来そうだ。
まばらに生える雑木を掴んでいなければ滑り落ちそうなほどの傾斜だが、何とか河原に降り立つことが出来た。
猿渓瀑布
河原に降り立つと、もう目の前が猿渓瀑布だった。辿り着けるかどうかは分からない前提だったが、今、目の前で目的の瀑布が我々を圧倒している。辿り着けたのだ。
初心者船山と握手を交わし、達成を喜び合う。
早速、幾筋かの小さな滝を跨ぎ、大きな瀑布脇の岩の平面へ登る。
金剛渓を独占
夏の山で藪漕ぎし、汗にまみれ、汚れ、そして火照った体を滝の流れに晒し、清涼感を満喫する。獏流脇の中腹に、Helinoxのイスとテーブルを設置し、クーラーバッグに入れて持ってきたキンキンに冷えたノンアルコール・ビールで乾杯する。さすがに秘境である。我々の他、誰もいないし、誰も来ない。こんな景観を独占出来るとは、何たる贅沢だろう。こんなに冷たいビールが旨い状態及び状況は、そうあるものではない。
我々の生活圏のすぐ傍に、このような場所があろうとは。
メスティンの導入
登山等においては、昼食に、JETBOILを持って行きカップラーメンを食べることが多い。瞬時に暖かいものを食べることが出来ることがメリットであり、面倒くさくもない。ただ、今回のように、目的地でゆっくり時間を過ごしたい場合、ある程度の調理も楽しみたい。もちろん、JETBOILでも不可能ではないが、JETBOIL単体では”焼く”ことは出来ない。
キャンプではTrangiaのStrom Coockerが万能であり、いつも活躍してくれているが、今回のような所に持って来るには、オーバースペックである。
そこで必要とされるのが、Trangiaのメスティンだと常々感じていたが、最近になって、やっと、第三者がテフロン加工を施したメスティンを購入したのだ。
メスティンでの初調理
今回、そのメスティンを初めて使う。まずは、炊飯から。
米と水をメスティンに入れる。いつもそうだが、水の量は、何となく米の倍くらい入れれば何も問題はない。フタを閉めて、アルコールバーナーのフタを1/4くらい閉じて、米の量に応じて20~30分火にかければ、米は炊ける。
炊き上がりは、グツグツという水分を含んだ音がしなくなることで大体は分かるが、ここは瀑声の中。フタを開けて確認するしかない。
ネット上では、メスティンで米を炊くと美味いという情報をよく目にするが、外で飯を喰えばどんなものでも美味いので、そこを魅力として捉えていなかったが、本当に上手く炊ける。
おそらく、メスティンのフタの密閉性がそこそこ高いからだろう。炊け方の偏りが無く全体的に万遍なく炊けており、そして、米が立っている。
ただ、やっぱり外で喰えば何でも美味いことに変わりはなく、炊け具合に拘る意味は大きくないのだが、メスティンは炊飯が得意であり、そこに一定の感動を覚えることは事実である。
炊飯が終わると、次に、メスティンのフタで、クーラーバッグに忍ばせておいた肉を焼く。
白い飯と肉。最強の組み合わせである。メスティンの導入理由としては、これがやりたかったという事が一番大きいかもしれない。
本来のルート確認
ひとしきり猿渓瀑布を満喫すると、帰路に就く。来る時には、途中でピンクリボンを発見したが、帰りはピンクリボンを辿り、歩き易いルートを確認する。
途中、何度かピンクリボンを見失ったり、道が荒れてルートが分からない所もあったが、概ね、登山道のような山道が続き、歩き易い区間も多かった。
全体的に下り基調の往路では、藪漕ぎに時間を要したため2時間以上かかったが、復路は上り基調であるにもかかわらず、1時間半程度で帰ることが出来た。
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