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隠岐(西ノ島)キャンプ & フィッシング

ゴールデン・ウィークの事だ、愛知県の友人、タンバが長崎県の五島列島へ行き、帰りに萩に立ち寄り、一緒に釣りをした。その折、タンバは五島列島に行ったので、次は隠岐へ行きたいと言った。“じゃぁ行くか”という事で、今回、隠岐へ行くこととなった。
タンバと日程調整をして、8月5日の朝に島根県の七類港に集合、そこから隠岐諸島の西ノ島へ渡り、3泊4日の滞在とし、宿泊はテント、移動は自転車、そして釣り道具を持ち、自由気ままな旅をする。

1日目

朝7時頃、七類港でザックに必要な道具を詰め込んでいると、タンバが到着した。俺は七類港に前日入りし車で寝たが、タンバは無睡で移動して来たとの事。
タンバもザックに必要な道具を詰め込んで行くが、タンバの“必要な道具”は、どうやら俺と認識が違うらしい。テントや調理器具等の生活用品はそんなに違わないが、釣り道具が全く異なった。俺は中型の魚にターゲットを絞った最低限度の釣り道具であるが、どうやらタンバは、西ノ島で丘から24.5kgのどデカいヒラマサが釣れたとのネット情報を見たのでそれを狙っているようだ。それだけに留まらず、何も釣れなかった時、食糧を調達できるようにサビキ釣りの道具と、“常温保存可能なチューブ型沖アミ”という夢のようなグッズも準備していた。
こいつの遊びに“程々”と言う言葉はない。釣りをすると言えば“釣る”のだ。このため、タンバのザックは恐ろしい程の重量になっていた。
フェリーターミナルへ移動した。ターミナルには、想定を超えるど迫力の大きさのフェリーが接岸してある。自転車を輪行バッグに詰め、チケットを購入し、出航までの時間を過ごす。“西ノ島って、どんなところだろうか?”と想いを馳せながら。
乗船案内に従い、フェリーに乗り込んだ。タンバは両腕で輪行バッグを抱え、重いザックに立てた長い釣竿が天井に当たらないよう、腰を屈めて苦しそうに乗り込んで行った。
船内の二等席は満杯だったので、デッキへ移動し、時々トビウオが飛ぶ海を眺めていた。西ノ島到着までは2時間30分。海ばかり眺めていては当然のように飽きがきて、小さな日陰を見つけて、昼寝をした。日陰は太陽の動きに合わせ徐々に小さくなり、暑さで目が覚めた。海の向こうには、もう隠岐諸島がはっきりと見えていた。
いよいよ西ノ島に到着し、早速自転車を組み立てて、先ずはターミナル近くの食堂で昼食を済ませた。
西ノ島で向かうポイントは、もう決まっている。島北西のエリアだ。外海に面し対馬海流が直接あたるであろうこのエリアへ行けば、きっとデカい青物が釣れるはずだ。それにその辺りは断崖絶壁の絶景で有名な国賀海岸でもある。昼飯を食い終わると、早速、国賀海岸へ向かい、ペダルを踏み始めた。
晴れ渡る真夏の蒼い空。灼熱のアスファルト上はとても暑い。その上、島と言えど思いの外登り坂があり、重たいザックがこたえてくる。時折吹く、乾いた涼しい風は心地よく、唯一の救いである。
途中、少しだけ坂を登った所にある橋で船引運河を渡った。橋から見下ろす運河の海水は透き通り、エメラルドグリーンに紺色を混ぜた様な表現しにくい色で、とても美しく、しばらく見とれていた。
先へ進み、工事中で稼働していない島唯一の信号を通り過ぎ、最後の坂を登り切り、国賀海岸に到着した。目前には迫力の断崖や奇岩が目を引く噂どおりの絶景が現れた。暫し絶景を楽しみながら、日陰で汗を乾かしたら、次は釣り道具を持って海岸へ下りて行く。
潮通しの良さそうな場所を探して、岩の岬の先端へ向かう、登ったり、下ったり、膝まで海に浸かったりしながら随分と歩いたが、途中、泳がなければ渡れなくなってしまい、敢え無く断念。引き返し、湾内の小さな防波堤で釣りをすることにした。
そのポイントは、水深も浅くとても青物が回遊して来るとは思えない。増して、透き通る海水の中に魚も見えない。だが、ここは隠岐。もしかすると何か釣れるかもしれないと期待し、ルアーを投げた。しかし、小さなマハタは釣れたものの、期待していたような状況とは大きく異なる。島の周りは見渡す限りの日本海で魚は沢山いるはずだが、まるで生命感を感じない。この様な状況なので、食糧確保のため、タンバは豆アジを30匹釣ってくれた。
夕まずめも終わる頃、釣りを諦め、食事にした。先週渓流で食べたパスタの余りを茹でペペロンチーノを作り、苦労しながらタンバと捌いた豆アジをオリーブオイルで炒め、ハーブソルトを振りかけた。
太陽が沈むと涼しくなり、暗くなると、指で摘むと折れてしまいそうな三日月は、海にそそり立つ奇岩の向こうへ直ぐに沈み、漆黒の闇夜に満天の星が溢れんばかりに浮かんでいる。島での生活では、過去の経験から蚊の猛攻を覚悟していたが、その蚊も全くいない。当に快適そのものだ。
食事を終え、草原に張ったテントに潜り込むと、寝不足のタンバは速攻で眠りに落ち、俺も間も無く眠りについた。

2日目

翌朝、物音で目が覚めた。タンバが朝まずめの釣りから帰って来た音だった。ここは観光地だからか、昨夜、夜中に何度か人が訪れ大声で騒いでいて、その都度起こされていた。なので朝方熟睡していたようだ。タンバに朝まずめの釣果を尋ねるが、やはりダメだったとの事。
米を炊き、朝飯を食った。タンバとこの日の行動について話し合う。この場所ではきっと釣れると思い込んでいたが、今となっては全く釣れる気がしない、だが、どこへ行けば釣れるのか、見当もつかない。地図を見ながら、島の北側、中央の船越辺りへ行ってみることにした。あの船引運河の辺りだ。
荷物をまとめ、再び自転車にまたがる。体重に荷物を加えると約100kgとなる重さを、小さなサドルで支えるケツが痛い。まだ午前中の早い時間だと思うが、太陽は容赦なく照り付ける。苦痛と闘いながら船越まで移動し、先ずは外浜海水浴場へ行ってみた。
自転車から降り、荷物を降ろし、まだ人の少ない、白い砂浜と青く透き通る美しい海を眺めながらひと息ついた。綺麗で涼しげな海を暫し眺め、汗だくで火照った体の我々は、当然の如く湧き上がる衝動のままに着の身着のままで海へ飛び込んだ。
海水は程よく冷たく、さすがに気持ち良い。透き通って明るい海中に潜り、裸眼のまま目を開けると、海底の白い砂から海面の青へのグラデーションがボヤけて見え、涼しさを誇張している。あぁ、楽園だ。
海水浴場にはよくフローターが浮かべてあり、そこに上がって休憩したり、海へ飛び込んだり出来るが、ここのそれには滑り台が付いている。大人気ないとは思ったが、どうにも気になるし、人も少ないので滑ってみた。すると、これがまた楽しい。結局、頭から滑ってみたり、立ったまま滑ってみたり、何度も何度も飽きるまで遊んでしまった。
ひとしきり泳いでクールダウンすると、腹がへったので、米を炊いて味噌汁を入れ缶詰と一緒に昼飯にした。そして、暑い中ではあるが、釣り場探しを再開する決意を固めた。
荷物は重いので、海水浴場に置いて行く。海水浴場近くの海岸には、道路が沿っていない。なので、少しだけ自転車で移動し、自転車は砂浜に放置して岩の海岸沿いを歩く。すると、湾の中に突き出た岩の突端まで難なく辿り着け、タンバと「ここは釣れるじゃろう!」とポイント発見を喜んだ。
早速荷物を取りに戻っている時、タンバが「ここにテントが張れそうなええ所があるぞ。」と言った。この時、タンバは高い岩の上を歩いていたが、俺は高所恐怖症なので、海水面近くを歩いていた。恐る恐る岩を5〜6m登ってタンバの所へ行くと、そこにぽっかりと穴が空いて、しかも床は綺麗に平面となっている。タンバの言うとおりキャンプ適地である。振り返ると、眼下には小々波がキラキラと光る海原が広がり、その向こうに雄々しい断崖が見える。岩穴の真ん中の縁から見下ろすと、まるで、世界をこの手中に収めたかのような気分にさせる絶景だ!こんな所でキャンプが出来るとは、恐るべき西ノ島、流石世界ジオパークだ!と興奮を隠せなかった。
荷物を取って戻ると、岩穴をベースキャンプとし、釣りの準備を始めた。そして早々に先ほど見つけた突端へ移動した。
40gのメタルジグをしばらく投げていると、早速ヒットした。「来たっ!」と興奮気味に叫び、足元まで引いてくると、20cm程度の青物らしき魚だったが、キャッチ直前で逃げられてしまった。タンバと「ここは居るぞ!」と意気揚々にルアーを投げた。が、それだけだった。景色的にはとても釣れそうなのだが、やはりここも昨日のポイント同様に生命感を感じない。諦めて岩穴に帰り、刺身定食の予定だったが棒ラーメンを茹でて夕食にした。
それにしても、タンバは最高のキャンプ地を発見してくれた。商店で買い出しした氷をカップに入れ、バーボンを注いで岩穴から絶景を見下ろしながら、大人のキャンプを楽しむ。見上げると奇岩の屋根の隙間から満天の星空が見える。昨夜同様、蚊もいないし涼しい。この夜は今までの人生で最高のキャンプだった。

3日目

朝まずめも前日同様に釣れなかった。朝食を食べながら、キャンプ地としては最高だがやはり移動するしかないと、移動先を話し合った。
実は前の日の海水浴場で、西ノ島へ移住して2年の地元女性と話をし、その時、魚はどこで釣れるのか聞いてみたのだった。その女性は“鬼舞”の方で釣っているのではないかと言う。しかし、その女性は魚釣りなど興味はなさそうなので、我々は半信半疑で話を聞いていた。
西ノ島に来て以来、我々は外海側でしか釣りをしていない。どう考えても外海側の方が釣れる気がするからである。だが、こうも釣れないのであれば、内海側へ行ってみるしかない。昨日の女性が教えてくれた“鬼舞”方面も内海側である。岩穴から離れるのは名残惜しいが、魚は釣りたい。ここは鬼舞方面へ向かう意外選択肢はなさそうだ。
荷物をまとめて移動開始したが、やはり暑い。再び海水浴場によってクールダウンしてから鬼舞へ向かう事にし、泳いで、滑り台をして、うたた寝をした。“あぁ、自由だ。誰も何も言ってこない。環境は最高。時計なんてほとんど見ない。この生活がいつまでも続いて欲しい。”そんな事を思いながら。
鬼舞へ向かう途中、とある食堂で昼飯を食った。その食堂の壁には、近くの定置網で大きなヒラマサが採れたという新聞記事が貼ってあった。その定置網の位置を見てみると、内海の鬼舞方面だ。確かに外海側で定置網は見かけなかった。それは日本海が冬に荒れる事が理由かもしれないが、我々にとっては、点と点が線で繋がった気がして「よしゃ、今日こそ釣れるぞ!」と未だどこかも分からないポイントを発見した気になり、やる気が満ちてきた。
鬼舞方面を自転車で捜索し、ここだと思う漁港を今日のポイントに決めた。その漁港に到着した時、水深はせいぜい50㎝くらいの浅瀬に70〜80㎝のスズキが藻の上に横たわっていて、我々に気付くと、ゆっくりと逃げて行った。タンバも俺も初めて見るその光景に「なんじゃ!ここは!」と驚いた。
そして防波堤に上がると、小魚がウヨウヨといる。スズメダイにアジ、そしてメジナだろう。その下の深場には時々数匹の大型チヌが通り過ぎて行く。昨日までのポイントとは打って変わって生命感に溢れている。だがしかし、防波堤に上がる前、地元の漁師と話をし、その漁師は「去年までは、ここで青物がよく釣れていたが、今年はイワシが入って来ないので、全然釣れない。」という残念な情報を聞いていた。
いずれにしても、我々は今更新たなポイントを探して移動することなど出来ない。そんな情報も元気もない。今日この時に、奇跡的にイワシが、この漁港になだれ込む事だけを願って、ここで釣る。明日には帰らなければいけないが、まだ何も結果を出せていない。さぁ、最後の決戦だ。
太陽が山の向こうに沈み、夕まずめタイムが始まった。それと同時に小魚たちが水面のプランクトンをピチャピチャと食べ始めた。と、その時、俺のメタルジグに何かが食いついた。リールを巻き魚が近づいて来ると、40㎝くらいの魚体が見えた。セイゴではない、これはヤズだ!青物が食ったぞ!「よっしゃぁ~っ!」と防波堤の上まで上げた時、ヤズから針が外れ、防波堤をかすめて海へ落ちて行った。「あぁ~っ!さ、刺身が~!」と。
だが、漁師が釣れないと言っていた青物が釣れたのだ。興奮は収まらない。タンバも俺も、バンバンとジグを投げた。すると今度はタンバのジグにヒットした。防波堤近くまで引いて来ると、サイズは40㎝ほど、今度は体高がある。カンパチの子供だ。釣れた魚の後ろには、同じ魚が2〜3匹付いて来ている。タンバは「このまま置いておくから釣れっ!」と言うので急いでジグを落としたが、奴らは逃げて行った。そしてタンバは今夜の刺身をキャッチした。その後も小さなカンパチが何本か釣れたが、もう刺身はあるのでリリースした。
そして今度は、ルアーの届かない沖でナブラが発生した。「くそー。寄って来んかのぅ。」と言っていると、段々と近づいて来る!そして目の前にナブラが来た時、タンバが苦労して持って来たロングロッドで渾身の一撃を投げた。が、あと僅か届かず、そして、この日の釣りは終わった。

そして、夕食。カンパチの刺身と、別に入手したアワビとサザエで当初予定していた島の恵みいっぱいの夕食にやっとありつけた。最後の最後にだ。
食事に満足した我々は、そのまま防波堤にテントを張り、眠りについた。

4日目

朝起きて、朝まずめを攻めるが、全く反応はない。昨日夕方は、隠岐の神が与えてくれた一瞬だったのだろう。
今日は本土に帰るフェリーに乗らなければならない。楽しい時間はアッと言う間に過ぎてしまうものだ。社会で生きて行くには、社会に戻らなければいけない。ついつい明日の仕事の事を考え、ブルーになってしまう。
最後にまた、外浜海水浴場で滑り台をし、フェリーに乗り込んだ。
さらば、西ノ島、お前は最高の島だった。また来ることになるだろう。





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