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猿渓瀑布 3rd

三度目の猿渓瀑布

一度目は、初心者船山と陸路開拓をするため、二度目は、井町さんからのガイド要請に基づき、猿渓瀑布へ行った。
そして今回も、井町さんからのガイド要請ではあるが、NPOあとうの方と北浦自然観察会長が興味を示していることを発端とした要請であった。

北浦自然観察会

当初、俺が猿渓瀑布の存在を知った時、ネットで検索すると、数少ない猿渓瀑布の情報の中に、ゴムボートで川を渡って荒廃した遊歩道を歩いて猿渓瀑布へ行ったというページに行き当たり、その情報を基に猿渓瀑布の場所を特定できたお陰で陸路ルートを開拓できたのだが、そのページが北浦自然観察会のものだった。
その団体をリードする、北浦自然観察会長は、近年の猿渓瀑布の第一人者であり、俺の師匠とも言っても過言ではない。
その憧れの北浦自然観察会長が、猿渓瀑布への陸路に興味を示されたとあらば、ガイドしない訳にはいかない。
いつもの初心者船山と、ついでに職場の三井さんもお誘いし、6人で猿渓瀑布へ向かった。

お師匠

北浦自然観察会の会長には、ご挨拶をさせていただき、その時点から「お師匠」と呼ばせていただいた。
お師匠は、ご高齢であるが、すこぶる元気だ。歩みはしっかりとし、歩行速度も速い。そして、よくしゃべる。
植物についての知識はまるで植物学者かと思わせるほどに豊富で、所々で珍しい植物について説明してくれる。植物以外についても博学で、会話のネタは尽きない。
飄々としたその性格は親しみやすく、気遣いも不要である。気さくなおじいちゃんだ。

Wildなお師匠

そんなお師匠は、我々を飽きさせず、歩き慣れたルートを楽しくさせ、気付くと猿渓瀑布に到着していた。
そして、まずは、昼飯を食う。
それぞれが持参した昼食を食べるのだが、お師匠は、カップヌードルに保温ボトルに入れてきたお湯を入れ、さっと食事を済ませていた。
さすが手馴れている。
その後、どういう話の流れだったかは記憶していないが、お師匠が「飲み物は熱いお茶が良い」と語った。そしてこの日、もちろんのことながら保温ボトルに熱いお茶を入れてきていると語った。
そう、その言葉をそのまま聞き流すことは出来ない。
俺「お師匠、さっき、カップヌードルに入れていたのは、お茶っすか?」
お師匠「うん。」
お師匠は、我々が驚いていることを全く意に介する様子など一切ない。

遊歩道の修繕

昼食を食べ終えると、各々は猿渓瀑布を散策して楽しむ。
一方、お師匠は「はしごを修理してくる」と言って、荒廃した遊歩道沿いに、一人で下流へ歩いて行った。はしごの修理とは、前回、井町さんが壊してしまったはしごのことだ。
元々、お師匠が荒廃した遊歩道を歩けるよう、段差が大きい所に手作りのはしごを掛けてくれていた。
はしごだけではない、急な斜面を横切らなければならない所には、ロープも渡してある。
こうしてお師匠が随所に手を入れていただいているおかげで、この遊歩道を何とか移動できる。
そしてはしごは壊れてしまったが、井町さんが悪い訳ではない。
現地で確保できる木材を使って作られたはしごは、随分と腐食が進み劣化していたのだ。
お師匠も、その事は理解していたようだ。
一人で修理に行ったお師匠が心配になり、遊歩道を下流に進み壊れたはしごの場所まで行ってみると、ちょうどお師匠が修理を終えたところだった。
修理されたはしごをよく見てみると、鉄筋と番線が使われている。
後で分かったことだが、お師匠は、はしごの老朽化具合を予測して、重い鉄筋を数本ザックに忍ばせていた。
歩く姿を後ろから見て、どうもザックが下に垂れ下がっていると思ってはいたが、そんな重量物を入れていたとは考えもしなかった。
修理を終えたお師匠は、満足気だった。

金郷渓

そしてそのまま、お師匠のガイドで遊歩道を下流へと歩いていく。
お師匠が修理したはしごを登り、切り立つ岩の間を抜ける。
その先には、踏み外すと滑落してしまいそうな階段を下るルートが待っていて、前回はここで断念し引き返した。そもそも荒廃し信用も出来ない構造物に命を預ける気にはなれなかったのだ。
しかし、お師匠は、何の躊躇もなくその階段を下るので、我々もその後をついて行く。
すると、その先には、とても見応えのある景色が待ち受けていた。
河川敷に横たわる二つの巨石、そしてその眼前にそびえ立つ大迫力の岩壁。
いつまで見ていても見飽きることがない。

手掘りのトンネル

お師匠に促され、その先へ進む。
しばらく進むと、トンネルが現れた。
断崖絶壁で、河川沿いに遊歩道を付けられない所は、トンネルが貫通している。
約100年前の手掘りであり、当時、どんな道具でどれほどの時間をかけて掘られたのかは分からないが、感心させられる。
これほど見どころ満載な景勝地が、今や、簡単には踏み込めない聖域となっていることは、もったいなくもあるが、だからこそ行く価値があるのかもしれない。

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